2020年3月26日木曜日

『あゝ、荒野』

前・後編、
合わせて5時間を超える大作、

『あゝ、荒野』(2017)

を見てみました。
(Amazon Prime で無料でしたが、
この無料期間は、「4/4 まで」と表示されています。
御覧になる場合は、お早めに。)

https://www.youtube.com/watch?v=kGpz_ry9EeI

舞台は新宿。
2021~22年という、近未来です。
たくさんのサブストーリーが張り巡らされていますが、
メインになるのは、
二人のワカモノの軌跡です。
一人は、新次。
この新次がまだ子供だった頃、
自衛隊員だった彼の父親は、
中東での任務の後精神を病み、自殺します。
その後母親は、新次を教会に預けたまま、
行方知れずに。
新次はもちろん、捨てられた、と感じます。
やがてワカモノに成長した新次は、
新宿の取り立て屋として肩で風を切っていますが、
ある暴力事件をきっかけに少年院へ。
そして今、3年経って出てきたところです。
もう一人は、健二。
韓国人の母と日本人の父。
韓国で母親が亡くなった時、
父親は、いやがる健二を連れて日本に向かいます。
けれども父親は暴力的で、
吃音症が強く、コミュニケーションをとるのが苦手な健二は、
苦しい生活が続きました。
そして今、彼は新宿で理髪店に勤めています。
この二人が、
それぞれの思いの中で、
ボクサーを目指すことになるのです……

5時間ですが、
あっという間でした。
すべてのセリフ、
すべての行為の意味が明らかなわけではありません。
それは時に「文学的」だったり、
「感傷的」だったりもします。
が、それを差し引いても、
魅力ある作品でした。

二人のワカモノの共通点は、
愛を知らないこと。
愛し方も、愛され方も、知らない。
そして一人は、その代償として憎しみを育て、
一人は、どうしようもなく「愛」を求める……
映画は最後に、
かなりシニカルな「意味」を湛えて終わります。

新次のリングネームは「新宿新次」であり、
この映画、新宿を描こうとしていることは明らかです。
多くの人同様、わたしにも、
自分なりの「新宿」がありますが、
この映画には、
わたしの知らない新宿もたくさん出てきて、
それもおもしろかったです。
ただもちろん、
新宿を全体としてとらえるなんてことは不可能なわけですが。
1つ、
百人町1丁目歩道橋をロードワークするシーンでは、
ここを記録したのか、
という感慨がありました。
この映画は、新宿を舞台にした群像劇であるとも、
新宿の持つ「呪縛力」(磯田光一)を描いているとも言えるでしょう。

新宿に興味があるなら、見逃せません。