2020年8月31日月曜日

If ...

 もしもあの黄色いボールの中に入ることができたなら

きみはテニスになることができるだろうか?

もしも張りつめたガットのこすれ合う小さな叫びに身を焦がすなら

緑の大地のやわらかな芝のほとばしる葉液を鼻腔深く吸い尽くすなら

 

でもきみはテニスにはなれない

きみはあの、ねずみ花火のように回転する環にダイブすることも

そこここに閃いては消えてゆく悲鳴を握りしめることも

緑の見えない呼気を踏みにじることさえできないのだから

 

朝焼けを飛ぶ鳥が見下ろす湖

その広がる水紋の頂に整列するひかりの粒が

揺れたわみながら輝く回路を描くとき

 

もしもきみもまたそのひかりのひと粒から生まれたことを思い出すなら

けれどきっときみは見ることになるのだ

その右の掌に刻まれた、木と火と水の文様を

 

 

 

不時着とパリ


『愛の不時着』、順調に第8話まで来ました。

The Eddy のほうも、第5話まで。

どちらも、「シリーズ」でしかできないやり方で作られていますが、

前者は、時間軸に沿った経糸を中心に見るものを引っ張り、

そこに、さらに、

さまざまな要素

(財閥、ママ友、子どもの教育、嫁姑、権力欲、現代の労働……)

をちりばめてゆくやり方です。

そして後者は、

もちろんある事件の真相を探るという物語の骨格はあるものの、

むしろ、主人公が毎回変わる

(今回はサザエ、前回は花沢さん、次回はノリスケさん、という具合)

ことが示している通り、

からまる横糸を次々にくぐっていく感じに、魅力を感じます。

第5回の主人公は、

ずっとアメリカ人だと思っていた女性歌手なんですが、

彼女が突然(おそらく)ポーランド語を話し始めて、驚きました。

でもパリなら、十分あり得るわけですが。

このまま見続けます!

2020年8月29日土曜日

遅すぎる、もちろん

 かつて、ネオ・リベ大将のサッチャーが亡くなった時、

彼女の業績に対する賛辞が並ぶ中で、

まさにその業績そのものを批判的に総括した国もあったし、

なによりイギリス各地では、

彼女の死を喜ぶ、デス・パーティーが開催されたと言います。

どちらにしても、

強い反応を生む首相だったわけなのでしょう。


それに引き換え、

まあ予想されたことという面もありましたが、

戦後最悪と言われる首相の今回の辞任に対しては、

あまり感情が湧きません。

ただ、

辞めたからといってもろもろ免罪になるわけじゃないのは、

言うまでもありませんが。

新規感染

 パリでは、マスクの着用が義務化されました。

https://www.afpbb.com/articles/-/3301540?cx_part=related_yahoo

そして新感染者数も、

「指数関数的に」増加していると。

https://www.afpbb.com/articles/-/3301727?cx_part=theme-latest

今東京では、

比較的落ち着いていることになっているのかもしれませんが、

また再び感染者増加が始まる可能性は、

常にあるわけです。

このへんが、

なかなか心落ち着かないところです。

同僚の先生からのメールでは、

もう後期のオンライン授業の準備を始めた、

とありました。

ほんとは、わたしもそうすべきなんですが、

まだ、上げるには重い腰、という感じ。

ここまでくるともうほとんどグチですが、

やっぱり対面授業がいいなあ……


そういえば昨日、

レナさんと白水社の編集のSさんと3人で、

Zoom 会議をしました。

レナさんから会議んへの「招待」メールが来たんですが、

それが全部フランス語で書かれていて、

しかも日本のそれよりずっと長くて、

一瞬驚きました。

「そうでした?

学生にもこれを送ってるんですけど!?」

まあね、

ID de réunion :…… 
Code secret :……

この2か所だけ見つけられれば、

会議には参加できるわけですが。

それにしても、

レナさんの学生は鍛えられてますね!

2020年8月27日木曜日

Netflix

 やっと、ネトフリに入りました。

もちろん(?)、『愛の不時着』目当てです。

このシリーズ、もう冬から話題になっていて、

ずっと見たいと思っていましたが、

オンライン授業進行中は、

とてもシリーズものを見る時間は取れず、

今日になってしまいました。

で、

さっそく『愛の不時着』第1話を見てみました。


ソン・イェジンは、いつもの印象通りで、

可愛いんですがちょっと演技が浅い感じ。

でも、観客を引っ張ってゆく力は十分あり、

ヒット作だけのことはあります。

途中、『JSA』に言及される場面もあり、

このシリーズが、『JSA』の末裔であることが意識されているのを感じました。

つまり、韓国映画においては、

北朝鮮の人たちが「人間」として描かれるようになったのは、

21世紀に入ってからのことであり、

『JSA』はその嚆矢でした。

(金大中の、「太陽政策」の時代です。)

これから、順に見ていきます。


同時に見始めたのが、

『ジ・エディ』

という、やはりシリーズもの。

舞台はパリのジャズ・クラブ。

二人の経営者のうちの一人はタハール・ラヒムで、

彼の妻は(リアルと同じく)レイラ・ベクティです。

(まあ、この二人が見始めた理由です!)

ただどうも、

これは「パリのアメリカ人」、も重要なモチーフであるようです。

こちらも少しずつ見ていきます。


これ以外にも、

シリーズものには面白そうなものがいくつかありました。が、

長いので、見るのには時間がかかりそうです。が、

楽しみでもあります!

『ルート・アイリッシュ』

 どうも、『家族を想うとき』でケン・ローチを

(もともと好きでしたが)

再認識して以来、まだ見てない彼の作品が気になるし、

一度見たものももう一度見たいと感じています。

(数年後には、ケン・ローチ作品を見るゼミを開講してもいい?)

で、

今日見たのは

『ルート・アイリッシュ』

です。

これ、「戦争映画」という宣伝文句や、

いかにも戦争っぽいDVDのジャケットのせいで敬遠していたのですが、

実はハリウッド風の「戦争映画」ではゼンゼンありませんでした。

https://www.youtube.com/watch?v=vJwem3Kxmuw

2007年、イラク戦争。

ただ現場では、軍だけでなく、

強力な警備会社のような、

民間兵も「活躍」していました。

彼らは、高い料金で護衛をしたり、

現場での様々な処理に当たったりして、

大金を稼いでいたのです。

下っ端の社員の月給が100万越えです。

(もちろん、死の危険と隣り合わせですが。)


主人公ファーガスは、

かつての軍人であり、

その経験を生かして民間兵となりました。

で、失業中だった無二の友人をイラクに誘い、

その友人は、

ファーガスの帰国中、

「ルート・アイリッシュ」で攻撃され命を落とします。

この「ルート」は、

バクダッドの空港と安全地帯を結ぶ道で、

世界一危険な道、と呼ばれているのです。

が……

この友人の死には不可解な点があり、

ファーガスはどうしてもそれが気になります……


亡くなった友人には妻、レイチェルがいます。

彼女は、ファーガスを憎み、

同時に、彼が好きでもあります。

二人の間には、

きわめて錯綜した感情が流れ、

それも映画の縦糸の一つになっています。


ファーガスは、不完全な人間です。

行動力があり、人の痛みが分かると同時に、

短気で、粗暴で、独善的でさえあります。

ただ彼は、自己処罰的でもあるのです……


イラク戦争を、

「戦争映画」のようにではなく、

イラクの市民の痛みも含め、

見落とされがちな視点から描き、

しかもそれを、人間ドラマと結びつけました。

不条理、と言ってしまえばそれまでですが、

いわば人為的な不条理が、

フィルムに焼き付けられていました。

2020年8月25日火曜日

息子は

 


PSG、残念でしたね……

ああいう感じで点が入らなくて、

まさか 0 - 1 で負けるパターンじゃないでしょうね?

と思っていましたが……、思うんじゃなかった!!

(それにしても、コマンにやられたっていうのは、

ちょっとしみじみ……)


で今日は、Histoires d'une nation の第3部を見たんですが、

そこに、スマイルというアルジェリア系(Kabyleです)の男性が出てきました。

彼は、1953年、

(つまり『ゴジラ』の年ですね)

仕事を求めてアルジェリアからパリにやってきます。

そして翌54年には、あのピエール神父のメッセージ、

路上で寝ている移民を放置していいのか?

というメッセージが出て、

多くの移民たちが屋根の下に移れたわけですが、

このスマイル青年は、この時点でもまだ、

セーヌ=サン=ドニの、

今で言えばスタッド・ドゥ・フランスのすぐ近くの工事現場で、

働きそして寝泊まりしていました。

そして、

「彼はその時、44年後、

彼の息子がスタッド・ドゥ・フランスで、

フランスを優勝に導くことをまだ知らなかった」

そう、彼の名は、

スマイル・ジダンです。


彼はこの後、

あの61年のアルジェリア移民虐殺を経て、

翌年マルセイユに移り、その後、

独立を果たした祖国に帰ろうとするのですが、

マルセイユで出会った女性と恋に落ち、

マルセイユに留まることにしたのですね。


そうそう、映画の中では、

やさしげな、

髪が完全に真っ白な男性がインタヴューを受けていました。

カルムイク人の父親と、

アルメニア人の母親を持っているこの男性は、

ユーリ・ジョルカエフの父親でした。

(画像の、上段・左端です。)

2020年8月24日月曜日

Histoires d'une nation

 2018年に制作されたドキュメンタリー、

Histoires d'une nation

を見ています。

このドキュメンタリーは、4部から成っていて、それは

  1. 1870-1927, Le pays où l'on arrive
  2. 1927-1954. Des héros dans la tourmente
  3. 1954-1973. La gloire de nos pères
  4. 1974-2005. Générations

です。

https://www.youtube.com/watch?v=CbpkMyw1-3U

そしてタイトルの『ある国の歴史』ですが、

「歴史」の部分が複数に置かれ、

「国」には不定冠詞が付いています。

この200分を越えるフィルムの中では、

きわめてたくさんの histoire が提示されます。

そしてそれらが流れ込む「種類」としての「国」、

ということなんでしょう。

もし「国」に定冠詞がついていたら、

それはいわば「公式のフランス」であり、

そこでは植民地主義も「善」である可能性さえあるのでしょう。

この映画は、そういうものとは一線を画しています。


今、エピソード2まで見ました。

これは、まあ教員として「勉強」すべきだろうと思って、

メモを取りながら見ていくと、

すごく時間がかかります!

でもたしかに発見もぽつぽつあって、

たとえば、1870年頃は、

イタリアから山を越えて入ってくる移民もいた、

当時、「国境」はあいまいだった、

というのです。

この国境意識の薄さの話は、

華僑たちが、東南アジアに広がっていった時代の説明では、

聞いたことがありました。

必ずしも「国」を越えてゆく感覚はなかったのです。

けれども、19世紀後半のフランスとイタリアの間で、

まあ庶民の感覚とは言え、

そういうものだったんだなと、改めて感じました。

そしてこの時代、フランスは普仏戦争に敗れ、

「国家」意識に目覚めます。

で、il faut faire des Français「フランス人を作らないと」

というスローガンの下、

まさに国家的な取り組みが始まってゆきます。

当時は、外国人だけでなく、

たとえばブルターニュにも、

フランス語が話せないフランス人はたくさんいたわけで、

学校の言語教育を通して、

彼らに国民意識を植え付けることが、

国家の大事だと考えられたわけです。

やっぱり「国民」は、

作り出すものなんですね。

2020年8月23日日曜日

『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』と2本のケン・ローチ映画

 このところ、

「ギグ・ワーク」や「ギグ・エコノミー」という言い回しを見かけます。

どうも、まだはっきりと定義されてはいないようですが、

要は、単発の仕事、それによって支えられる経済のあり方、

くらいのところなんでしょう。

ワークの方の代表は、ウーバー・イーツだと言われるようです。


ただこの形態、一見「かっこいい」とも言われ、

またデザイナーなどクリエイティブ系の仕事も、

そういう名称で呼ばれることがあるため、

むしろプラスのイメージを持っている場合もあるのでしょう。

けれど、

ウーバーは同じではありません。

ウーバーのドライバーは「従業員」ではなく、

「個人事業者」なのです。

つまり、団体交渉もできないし、

事故っても自分で処理しなきゃならないし、

つまり、法的にまったく保護されないわけです。

『家族を想うとき』の主人公もまた、

絵にかいたようなギグ・ワークの中にいました。

そんな仕事しかなかったからです。

またヘルパーをしていた妻の働き方も、

ギグ・ワークと呼べるものでした。

二人は人生の時間と尊厳を奪われていきます……。


『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』

の中には、ウーバーのドライバーの過酷な労働が紹介されています。

そしてまたこの本は、

アマゾンの倉庫での、

異常に管理された労働も紹介しているのですが、

このイギリスの倉庫では、

イギリス人は少数で、

東欧からの労働者がメインだと言います。

ああ、これはまさに、

『この自由な世界』とぴったり一致しています。


イギリスには、

(良くも悪くも)

学ぶべき点が多くあるようです。

『この自由な世界で』

 エンタメを2本見たのですが、

これはまあ言ってみれば、その前に見た

『家族を想うとき』

の余韻が強くて、

「まともな」映画はちょっと見にくかったからでもあります。

で、やっと、次を見てみようという気持ちになり、

でもせっかくだから、ケン・ローチ監督のまだ見てない作品を、

ということで選んだのが、

『この自由な世界で』(2007)

です。

https://www.youtube.com/watch?v=ectf5B5ice0

33歳のシングルマザー、アンジー。

人材斡旋会社でがんばって働いていたものの、

セクハラをとがめたために解雇されてしまいます。

で、

彼女は友人のローズと二人で、

今度は自分たちでそうした会社を立ち上げることにします。

まあ、勝負に出たわけです。

最初は順調に見えたんですが、

その後、予想しなかったさまざまな問題が生まれ……

という物語です。


この映画の中で登場する人材会社は、

主に東欧の仕事がない人たちをイギリスに連れてきて、

最低賃金の仕事を紹介することを主な業務としています。

看護婦も、教員も関係ありません。

用意されているのは「底辺」の賃労働だけです。


この映画は、とてもいい映画でした。

しかも、いい意味で屈折がある。

アンジーはいい人間だし、

根はまじめでやさしいし、

息子を愛しているし、

人生を楽しみたいと思っている。

でもそんなアンジーが、

東欧からの「人材斡旋」という、

きわめてネオ・リベ的な仕事に打ち込むうち、

(それは自己実現のため、息子との生活のためです)

いつか、

自分を搾取していた構造の一部となり、

その論理を内面化して行ってしまうのです。

それは、見ていてとても苦い味わいで、

アンジーを一方的に批判することはとてもできないけれど、

でもやっぱり擁護することもできないという……

こういう主人公は珍しいと思います。


アンジーの父親、

ちょっと古くて、ちょっと頑固で、やさしい彼は、

娘の斡旋業のあり方を真っ向から否定します。

ここには世代の違いもありますが、

やはり、価値観の相違が際立っている。

そこかケン・ローチ監督のうまさなんだと感じます。


言うまでもなく有名監督ですが、

やっぱりケン・ローチはいいです。

『殺人の疑惑』

 ソン・イェジン繋がりでもう1本、

『殺人の疑惑』

を見てみました。

(それにしても韓国映画は、

題名に「殺人」が付くのが多くない?)

https://www.youtube.com/watch?v=Dehra2-Wz0w

大学院生の娘と、ラーキング・クラスの父親。

この父娘は、深い愛情で結ばれている……ように見えるんですが、

娘がふと耳にした、

15年前の男児誘拐殺人事件の「声」が、

あまりに父親のものに似ていることに動揺し、

そこから日常が揺らいでいき……というお話。


たしかなサスペンスが目の前にあり、

観客はそれなりに引っ張られてゆきます。

そしてオチにたどり着くまで、真相はわからないのです。

(というか、この作りなら、

どちらの結論にもなり得る感じで……)

だからエンタメとしては、十分見ていられるんですが、

見終わってみると……

Et alors ? な感じもなくはないです。

まあ、ソン・イェジンを見せる映画なんでしょう。

実際彼女の姿が常に写っている印象でした。

やっぱり、『愛の不時着』、見なきゃダメかな?

2020年8月22日土曜日

『ザ・ネゴシエーション』

ソン・イェジンといえば、これ

http://tomo-524.blogspot.com/search?q=%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%82%B9

で主演していたことくらいしか知らないのですが、

彼女が現代劇に出ているのも見てみようと思って、

『ザ・ネゴシエーション』

を見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=AokTVzlIaVI

ソン・イェジン演じる警部補は、

英語ができる交渉人、という立場です。

で、ある大きな人質誘拐犯から、

彼女は画面の前に呼び出されるのですが、

その理由は…… というお話。


冒頭から半ば過ぎまでは、快調に展開し、

エンタメとしてはとてもいい感じでした。が、

まあなんというか、

第4楽章がちょっと平板な印象。

ソン・イェジンは、かっこいいし感じもいいのですが、

演技は少し浅かった、かな?

2年と12日前

 

Ce n'est pas un tanouki.

 

そういえば「たぬき」って、

フランス語がないんだった。

2020年8月20日木曜日

シャルルよ

スーパーの駐車場を出たところで

スマホを手に取り

インターネット・ラジオを開く

それはFrance Culture

男女が話している何の話だ?

クルマはすぐに交差点に差しかかり

エンジンはオートストップする その時

しわがれた男の声が

唐突に耳を打ち始めた

これは……

シャルルよ、きみの詩だ

タイトルは思い浮かばない

けれどもしわがれ声と同時に

わたしの中からもフランス語が聞こえる

もう何度読んだか知れない詩だきみの詩だシャルルよ

 

かつてきみの詩から

パリを

群衆を

聖なる売淫を

味わったのだ20世紀後半のワカモノとして

パリだけで20回引っ越したきみの詩は

東京で這いずり回っていたガクセイの喉に

杭のように悔いのように打ち込まれた

だから聞こえてくるのだ今でも

還暦過ぎの胸の底からも

シャルルの腐臭する言葉が逆巻く髪のように立ち昇ってくる

 

新型ウイルスが灼熱に晒される8月の真昼の東京の交差点で

ブンガク

とは何かを考える羽目になるとは

この調子の高い

けれど内臓を食いちぎるような言葉は

ブンガクなのか?

有料になったレジ袋に反響する言葉

このレジ袋の背後に社会があり世界がありそこにブンガクはあるのかないのか

マクロンの支持率が下がり

プレイヤッドの売り上げも落ちる

クジラはプラスチックを飲み込み

ブロイラーは歩けない太り過ぎて

これはブンガクなのかブンガクはどこにあるのかここに

この右折待ちの炎熱の車内にもコトバは響くというのに

 

来年、もしきみが生きていたらちょうど200歳だ

影のように老いぼれたきみと シャルルよ

そのコーナーのファミレスで

パフェなんぞ一緒につついてみたい

きみの目は

いつでも少し怖いのだけれど

 

2020年8月18日火曜日

虫と酸

 

あのものたちの顔を見

あのものたちの声を聞くと

ムシズが走るわけだが

このムシズだかムズシだかがナンなのか

わたしはよく知らないのだった

そこでコトバンクだ

親指を何度か滑らせてコトバンクに訊く 曰く

胃酸過多のため、胃から口に出てくる不快な酸っぱい液

そうか胃酸過多なのかおまえも

おれは高校生の頃からずっとだもうそれがデフォルトだだから

ただでさえムシズなのにあのものたちの顔と声ときたら

もうムシしたい耳をふさいでしまいたい

走ってくるムシズを振り切って逃げてゆきたい けれど

それがムシたちの望みなのだムシされればムシの王国だそれはきっと

ムシズに満ちた凄惨な世の中でぼくたちはムシズの海を泳ぐ

クロールで泳ぐ平泳ぎで泳ぐでもいつか溶かされるあの

汚れた小さな布切れに支払った数百億と一緒に溶かされるムシズでだから

あのものたちの顔を見

あのものたちの声を聞いてもぼくらはこらえるムシズを

口いっぱいに溜めて

体いっぱいに溜めて

ぼくらこそがムシズになり

あのものたちを溶かしてしまえるように ところで

選挙はいつだ?

夢の本屋をめぐる冒険(1)「フランス編」

 紹介されるのは、シェイクスピア・アンド・カンパニーです。

https://www.nhk.jp/p/ts/21X31K99PY/ 

以前、共著で出版した『敷石のパリ』は、

もともと、この書店からの問い合わせがきっかけで生まれた企画でした。

今、この本も、

この書店に並んでいるはず。

かすかなかすかな縁ですが、

やっぱり、少し特別な感じです。


 


2020年8月16日日曜日

『家族を想うとき』

 『わたしは、ダニエル・ブレイク』で引退すると言っていたケン・ローチ監督。

けれどもその後引退宣言を撤回して撮った

『家族を想うとき』

を、見てみました。

https://longride.jp/kazoku/

舞台は、『ダニエル・ブレイク』を同じニューカッスル。

宅配業の父親、介護職の母親、

不登校の息子と、まだあどけない娘。

彼らを、この社会のゆがみが、

おそろしい酷薄さで飲み込んでしまいます。


こんなに見ているのがつらい映画は珍しい。

そして、これほどの傑作も珍しい。

ケン・ローチ監督の作品はたくさん見てきて、

好きな作品も多いですが、

今回は、ちょっと別格かも。

『国家が破産する日』/『パラサイト』

 ヴァンサン・カッセルが出演している韓国映画、

『国家が破産する日』

を見てみたんですが、まあ、一言で言って退屈だったので、

そういえばずっと見てなかった

『パラサイト』

でも見てみることにしました。


これはもう大ヒット作なので、

御覧になった方も多いでしょうし、

いろんな批評が(わたしはほとんど読んでいませんが)出たのでしょう。

というわけで、ネタバレありで少しだけ感想を。


ポイントは、ソン・ガンホが社長を殺すところにあるのでしょうが、

これは、地下に匿われていた男の代理、

という風に見えました。

つまりこの殺人は、ガンホの個人的な問題なのではなく、

階級的な行為なのでしょう。

半地下、あるいは地下に住む者たちの、

言い換えれば、金持ちに寄生することでした暮らせないものたちの、

宿主へのルサンティマン、

それが、ブルジョワ階級の象徴である社長殺しの動機に見えます。

そして問題は、この殺人を犯したガンホが、

またしても社長の家の地下に隠れたこと。

社長個人を殺しはしたものの、やはりガンホは、

寄生することでしか暮らせないわけです。

息子はいつかこの家を買い取るつもりですが、

(そしてそれは実現しそうにありませんが)

それもまた、現在の階級的構造の中で生きることの宣明でもあるわけです。

つまりこの映画は、

階級問題が生むルサンティマンを描きはしたわけですが、

それ以上ではない。

この映画が想定してる社会は、あくまで「そういうもの」であり、

つまり現状肯定的、ないし悲観的な諦念が、

映画全体を覆っていることになるのでしょう。

もしも監督が、

大衆がこの映画を否定することを願う、

とでもどこかで発言しているなら、話は別ですが。

技術的には、さまざまなジャンル映画の要素を利用していて、

観客を引きつける術にはたしかに長けているのでしょう。

でもやはり、

韓国の現状を示す小ネタがいくら多くても、

ことの本質に迫ろうという視線はないし、

上で書いた通りの意味で、

大きな限界をわたしは感じました。

2020年8月15日土曜日

もっとも美しい瞬間

 

もっとも美しい瞬間は君の死角で生まれる

すり足の弧を描いて引かれたラケット

しかしその果てでラケットは消えるそして

そしてまさに消える瞬間それは出現する閃く影のように

君の死角でそれは生まれ生まれたかと思うと羽ばたくのだ朝焼けの

曳航される船体の重さとたとえば夜の

失踪する車輪の轟音を引き連れてだから君の死角はもはや見つからない

失われた瞬間の残像だけが在るそこに在りいつでも在り在りつづけるそれが

テニスだ

2020年8月14日金曜日

テニスをするテニスだけをしている

 

テニスをするテニスだけをしている

ラケットを握るラケットを引くラケットを下ろす

下ろす位置を確認する確認し体をひねる

腕が緩んだ手首が重くなったラケットが引っ張られる強く

描かれた軌道の方へ毛羽立つ黄色い軌道に向かって走る

ラケットが走る止まれない走る切り裂く音も走る

テニスをするテニスだけをしている

振り抜く過去の音の中へ振り抜く未来の航跡の中へ振り抜く

回旋する腕と手首とラケットが巻き付いてゆく計画されたハイウェイ

遠ざかるものを見つける見つめる脚が動くスプリットに動き跳ね滑る

テニスをするテニスだけをしている

2020年8月13日木曜日

Hors Normes

 ナカシュートレダノの『最強のふたり』のコンビによる新作、

Hors Normes (2019)

やっと見ることができました。

https://www.youtube.com/watch?v=63efWAPLjis

中心になるのは2人。

ヴァンサン・カッセル演じるブリュノと、

レダ・カテブ演じるマリックです。

(豪華共演です。)

前者はユダヤ人で、後者はムスリム。

で2人は、それぞれ、もう20年も前から、

自閉症の子ども、あるいは若者たちを受け入れる組織を運営しています。

そこにいる子ども・若者たちは、

基本的に、他の公的施設などが受け入れてくれなかった人たちです。

もう、2人の組織が受け入れなければ、行くところがない、

あるいは、彼らの症状が悪化してしまうような場所しかない、という状況です。

2人は、いわばお互いの活動を補いながら、

他のさまざまな人たちや病院などと繋がりながら、

綱渡りの活動を続けているのです。

また彼らの下で働くのは、

うまく仕事を得られない、社会に居場所を見つけられないような「ワカモノ」で、

彼らを育てるのも2人の仕事です。


『サンバ』でも繰り返し出てきた、馬も出てきます。

自分の頭を壁に打ち付けてしまうので、

いつもヘッドギアを付けているヴァランタンが、

初めて、馬をなでる場面。

ヴァランタンの表情に、かすかに光が差したときは、

ちょっと打たれました。


また、洗濯機好きのジョセフ。

彼は、何かあると、ブリュノに訊くのです、

肩に頭を載せていい? と。

そしてそれは、彼の愛情表現なのです。


自閉症の子ども・若者たちを取り巻く状況を描くのは、

かなりチャレンジングなテーマだと感じます。

でも、でき上った作品は、とてもよかったです。

フランスのメディアの映画評には、たとえば、

「自閉症の内面が描けてない」

という批判もあり、

たしかにそうかもしれませんが、

それでもわたしは、いい作品だと思いました。

ネオリベ的「生産性」なんて、

クソくらえだと思いました。

「エマニュエル・トッド〜 グローバリゼーションを超えて」

 13日(というと、もう「今日」なんですが)の、23時から、BS1で、

トッドのインタヴューが放送されます。

https://www.nhk.jp/p/bs1sp/ts/YMKV7LM62W/episode/te/XX696GJZ3R/

これは見ないと!! 

2020年8月10日月曜日

『シノニムズ』

 去年のフランス映画祭で上映され、

かなり話題になった映画、

『シノニムズ』

を(フランス版DVDで)見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=9u1HtImIb6s

主人公ヨアヴは(監督同様)イスラエル人。

ただ彼は、国家としてのイスラエルに嫌気が差し、

(その直接のきっかけは兵役のようなんですが)

フランス人になるため、パリにやってきました。

そしてこの映画は、彼のその努力と挫折の過程を描いています。

広く言えば、フランスに適応しようとする移民の物語です。


中心となるモチーフの1つが、言語。

主人公は、ヘブライ語を捨て、フランス語だけを話そうとします。

(実はこれは、リトアニアからイスラエルに移民した祖父が、

イディッシュ語を捨ててヘブライ語だけを話したこととパラレルになっています。)

で、

パリの街を歩きながら、

彼は辞書的な「シノニム」(類義語)をつぶやき続けるのです。

こうした言語の問題は、目新しいことではないけれど、

映画の中で正面から描かれるのは珍しいかもしれません。


また彼は、ヌードモデルのバイトをします。

依頼主は、ヨーロッパ的な退廃を表してもいるのでしょうが、

これはそんなに深味がないように思いました。

それから映画冒頭、

無一物でパリに着き、持ち物を全部盗まれた折り、

彼を助けてくれる若いお金持ちのフランス人カップルがいるのですが、

この二人は、すごく現実感が薄い。

むだに(と言うと言い過ぎかもですが)「文学的」だし。

主人公は、カップルの女性と寝ることになるのですが、

その表現は、

ヌードモデルのシークエンスとバランスがずれているようにも感じました。


というわけで、

もちろん最後まで見ていられるし、

フランス語講座の場面など、

おもしろい箇所もあるのですが、

いざこうして書いてみると、

自分がそんなに気に入ってなかったことが分かりました。

もうずいぶん前の、「実験映画」風のカメラワークも、

ややあざとい感じ。

フランスの描き方も、

イスラエルの描き方も、

両方とも甘いんじゃないかと思いました。

2020年8月9日日曜日

ミズノ・マスク

 


数日前から使い始めた、ミズノ・マスク。
抽選に当たったので、つい、
夏用の涼しいやつ(右)と、
まあ秋冬も使うだろうということで、
ふつうのやつ(左)と、
2つ買ってしまいました。

正直言って、少し期待してたんですが、
まあ、マスクはマスクだし、
秋冬用は1000円しないわけだし、
やっぱりマスクでした!
(つまり、特にどうということもないです。
ただストレッチはかなり利いていて、
その分フィット感は強いです。)

……と言いつつ、
これからしばらくお世話になるつもりです。
(こんなことが話題になる時代……)

2020年8月7日金曜日

『猿の惑星』

 昨日の昼食中、なんとなくBSをつけていると、

『猿の惑星』が始まりました。

まあ、ありがちなことですが、結局最後まで見てしまいました。


この映画、もう4,5回は見てますが、

なぜかいつもテレビです。

わたしが小学生時代の1968年の映画ですから、

テレビ放送回数もかなり多いのでしょう。

もちろん、見てしまうというのは、

「おもしろい」ということではあるんですが……


有名な映画だし、これはきっと、

もう言われつくしていると思うんですが、

(「おもしろい」のは十分認めるとして)

いろいろ問題も感じました。

まず、「スチュワート」なる女性、

クルーの中の唯一の女性が、

いきなり骸骨姿で観客にさらされます。

そして上陸後は、

まっさきに黒人クルーが殺され、やがて、

金髪白人ムキムキのテイラーが、単独のヒーローとなります。

そして彼は、美人で、スタイルもよく、

ただし知能は劣っているノヴァをパートナーに選び、

「主人」として、彼女を連れていきます。

彼女はいわば「半裸」で、

観客に対しては、性的視線の対象として供されています。

科学者である人間の女性は骸骨と化し、

知能が足りない美人がトロフィー・ガールとなるのです。

つまり、白人男性中心主義と、マチズモと、ミソジニーとが、

わかりやすく、画面に横溢しているわけです。


映画には、人類への警告があると、言えば言えるのでしょう。

けれども映画のメタ・メッセージは、

そこで想定されている「人類」とは白人男性であることを示しています。


これ、教材としては、反面教師的に使えるかも!?

中年の星よ

 46歳で初タイトルを獲り、「中年の星」と呼ばれる木村王位。

「最年少」づくしの藤井棋聖に対し、三連敗を喫してしまいました。

しかも、勝ち筋があったのに気づかず、

(というか、世界中の99.9999...%の人が気づかなかったわけですが)

勝利はスルリと逃げていきました。残念!


このほとんど誰も気づいていなかった勝ち筋、1三銀。

実は気付いていた人がいます。

そうです、藤井王位です。

なんてことでしょう……


藤井棋聖はスゴイというか、

もうそのすごさが想像できないほどです。

応援もしたいです。

ただ、「中年の星」もまた、応援しないわけにはいきません。

もちろん何歳だろうが、タイトルを獲るって、

それはもう……とんでもないです。

でもやっぱり、40代後半でというのは、

一味違います。


第4局は、木村王位の快心の一局になることを!

2020年8月6日木曜日

Manon regardant Ishida


防御率 0.68 !!









Knock Down The House

<13th>に続いて、
ネトフリが提供するドキュメンタリー、

Knock down the House

を見てみました。
(YouTube で公開中。)

この映画は、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスを始め4人の女性たちが、
2018年の民主党予備選に挑むプロセスを描いています。
当たり前ですが、
一口に「民主党」といっても、
ヒラリーもバーニーも党員なわけで、
かなりの幅があります。
で、この勇気ある女性たちは、
古いしがらみと利権にまみれたヴェテラン議員に挑んだわけです。
大学の無償化、
国民皆保険、
労働者の権利拡大、
などを掲げて。

オカシオ=コルテスはもともと好きですが、
これを見て、一層身近になりました。
日本でも、こんな人が出てこないかなと、
もちろん思いますが、それには、
その人支える草の根的な運動がどうしても必要で、
そのためには、まず全体の政治意識が上がらければならないし、
つまり、これはカリスマ的な一人の人間の登場、
というようなことではないわけですね。

で、最後に流れる曲はこれ。


もう、これしかない、という感じ。

とても緊張感のある、
おもしろいドキュメンタリーでした。

2020年8月5日水曜日

Manon sur la Diatone



このごろここがお気に入り。
涼しいの?

Clash 100

久しぶりに、ラケットを買いました。
なんとなくそんなつもりでネットを見ていると、
ちょっと前にコーチが押していたラケットが、
約60%OFF(!)でAmazon に出ているのを見つけ、
いろいろネット評判を読んで回った挙句、
試打もしないまま、買ってしまいました。
(60%って、つまり32,000が14,000。
値段につられた部分、大きいです!)

でその、Wilson の Clash 100、
初めて使ったんですが……
これはいい!
気に入りました!
実はこれも295g で軽量タイプなんですが、
今まで使っていたものはもっと軽かったので、
これでもあたりがどっしり感じます。
頼もしい感じ。

ああ、もっと早く、
ラケットを換えるっていう発想をすればよかった!

2020年8月3日月曜日

13 th

4月から YouTube で無料公開されていて、
話題にもなり、
ずっと見たいと思っていたんですが、
やっと見ることができました。
(見る見ないは、時間、というより、
気持ちの余裕の問題なんですね。
前期の授業が終わり、あとはレポートいくつかと、
成績評価だけになったので、
少し余裕ができました。)


13 th。
これは、「合衆国憲法修正第13条」のことです。

今アメリカには、「刑務所ビジネス」と呼ばれる歪んだ巨大産業があり、
それはいわば、形を変えた奴隷制であり、
BLM 運動は、この長い苦悶の時間の蓄積の中から生まれたもので、
昨日今日のことがらではない……

評判通り、引きつけられる内容でした。
もちろん、部分部分は知っているのです。
ただそれが、今まで知らなかったことと一緒になって、
うなるような文脈に飲み込まれてゆくので、
とても勉強になりました。

2020年8月2日日曜日

Manon et Soto


「イスラム教の犠牲祭、いけにえにささげられる動物たち」

AFP のこのニュース。


悪意を感じるほどではないですが、
少し、「野蛮ですよ」って言ってる匂いが。

言うまでもなく、
彼らはこれをごちそうとして食べるのです。
つまり彼らは、
自分たちの食べる肉がどこから来るのか知っているわけです。
あらゆる屠殺現場の映像が封印されている西側の方が、
無知という罪の近くにいるように思います。

(で、今「とさつ」と入れて変換しようとしたら、
できませんでした。
もしかして、すご~く長いい間読み間違えてた!?
と思って調べると、屠殺=とさつ で合ってました。
漢字制限、なんですね。)