2023年3月30日木曜日

『スカーレット・ストリート』

今年度の大学院ゼミ、
ここまで続けてきましたがついに最終回を迎えました。
で、院生セレクションのラストは、
フリッツ・ラングの

『スカーレット・ストリート』(1945)

を見ました。
よくできた映画でした。


出納係として25年まじめに働いてきたクロス。
趣味は絵を描くこと。
彼は5年前、孤独に耐えかね、
夫の警察官が殉死した(とされる)アデルと再婚したものの、
この女性、
暖かさの欠片もなく、
つねに前夫と比較してクロスを罵倒し続けます。
そんなとき、クロスは街角で、
男に殴られている若い女性と遭遇。
クロスは思わず助け、
その助けた「きれいな」女性に好意を持ちます。
そしてその好意を利用して、
女性と彼女の愛人がクロスを利用することを決めたときに、
物語が、クロスの転落が始まります……

実はこの映画、
1930年のジャン・ルノワールの作品、
『牝犬』
のリメイクでした。
(原作の小説あり。)
で、YouTube にあったこちらの抜粋と見比べたところ、
ラストシーンの意味づけの方向が、
大きく異なっていました。
金持ちらしい客に買い取られてゆくクロスの絵、
それが、あの若い女性の肖像なのか、
自画像なのか、のちがいです。
そしてこの違いは、
2つの作品のテーマと直結しているのでした。

映画自体もおもしろかったですが、
比較もおもしろかったです。

2023年3月27日月曜日

『ローズメイカー』

カトリーヌ・フロ主演の映画、

『ローズメイカー』(2020)

を見てみました。


バラ作りに人生をかけた女性の物語、
というと悲壮感が漂いますが、
そこはカトリーヌ・フロ。
やわらかでやさしげなコメディになっていました。

もともとそんなに期待してませんでしたが、
まあ、バラそのものの美しさ以外は、
取り立てて言うこともない映画でした。
単純な構図、単純な物語、
単純な伏線、情緒的なエンディング……。

でもこれ、
フランスのメディアでは、
そこそこの評価をされています。
「フランス人」好み!?


2023年3月26日日曜日

『ナイト・エージェント』

もうずいぶん昔ですが、
このジャンルも知っておきたい!
との一心で、
推理小説ばかり読んでいた数年がありました。
で、
その結果好きになったのは、
まずはレジナルド・ヒル。
彼の小説は、(別名義のものも含めて)ぜんぶ読みました。
今思い出しても、
いい小説だと思えるものがいくつもあります。
(『死に際のセリフ』とか『子どもの悪戯』とか。)
そしてローレンス・ブロック。
(もちろんマット・スカダー・シリーズ)
で、マイクル・コナリー。
(もちろんハリー・ボッシュ・シリーズ)
3人とも超人気作家ですが、
やっぱりそれだけのことはあります。

で……

この中のマイクル・コナリーが絶賛したという小説、

『ナイト・エージェント』


がドラマ化されていました。
ネトフリで配信されたので見てみると……


これ、素晴らしいです。
すごくおもしろい推理小説を読んでいる時の興奮があります。
そうした「興奮」に興味があれば、
かなりオススメです。

<以下、完全にネタバレします!!>

で、このきわめてよくできたサスペンス・ドラマには、
それだけではない、
単純ではあるけれど新しい1つのパラダイムのようなものを
見いだすこともできます。
それは「父親」を通して描かれています。

ドラマの中では、
二人の父親が対比的に描かれます。
まず、FBIに勤務する主人公ピーターと、
やはりかつてFBIにいて、
組織を裏切ったとされる父親です。
(ピーターは、父親の無実を信じています。)
そして、大学生の娘マディとその父親。
この父親は副大統領ですが、
一方では、まだ幼かったマディに、
彼女の妹の溺死の責任を押しつけたり、
狂信的にテロリストを排除したがったりする人間です。
で、
この二人の父親は、結局、ダメなヤツだったのです。
特にピーターの父親は、
息子の期待とは違う存在でした。
(その後の名誉回復のチャンスは、暗殺されて失いました。)
つまりこの物語には、
アメリカ映画でお馴染みの「偉大なる父親」は存在せず、
汚れた2人の父親が提示されているのです。
また、
事の発端となり、ピーターと仲良くなるローズは、
叔父叔母に可愛がられ、そこに両親の影はありません。
さらに、
唯一「よき父親」である
(ただし離婚しており、実際にはほとんど娘と会ってないのですが)
シークレット・サービスの男性
(Lucifer のお兄さん!)
は、銃撃戦の最中に撃たれ、命を落とします。
「よき父親」は生きられないのです。
で最後に、
大統領が女性であることも、意味があるのでしょう。
現実のアメリカにはまだ、女性大統領が生まれてはいません。
アメリカの「父親」との言うべき大統領もまた、
このドラマ内では女性なのです。
これらは、偶然とは思えません。
新しい社会の形を提示しているのでしょう。

ラストも、
女性大統領の命を受けたピーターが、
新たな任務に旅立つところで終わります。
よく考えられた、いい作品だと思います。

2023年3月24日金曜日

フランスよ

年金改革問題、強行採択のあとで……



2023年3月23日木曜日

あと10日!

4月4日のオンライン・イベント、
だんだん近づいてきました。


オンライン、
自宅でやって通信に問題が起きると困るなと思っていたら、
SBクリエイティブのオフィスを使わせてもらえることになりました。
で、さらに、
ホワイトボードも!
これがあると、もうほとんど「授業」もできるので、
やりやすいです。
といっても、わたしの「授業」の場合、
ほとんど「雑談」と変わらないとも言われますが。(←それじゃダメじゃん!)

すでに、多くの申し込みを頂いているようです。
(Merci beaucoup !)
一緒に楽しい時間を過ごせればと思っています!

「ふらんす」4月号、本日発売!


白水社の雑誌「ふらんす」、
毎年大人気の4月号が、今日発売になっています。
「ふらんす」は、
日本で唯一の<フランス(語)雑誌>で、
ほんとに貴重です。
もちろん、わたしたちフランス語教員で、
この雑誌を知らない人はいないし、
これで知って、いろんな情報を学生に話すこともままあります。
貴重っていうのは、そういうことです。
(で、自分で買ってしまえば、
それは先生たちのネタ帳を見てることになります!)


さすが、充実のラインナップです!
(わたしも今回、コラムを1つ書かせてもらっています。)

1年間の定期購読が最高ですが、
とにかく、この4月号は「買い」です!

『そんなの気にしない』

アマプラ(有料)で、
フランス/ベルギー映画、

『そんなの気にしない』(2021)

を見てみました。
原題は Rien à foutre. (どうでもいい)
主演は、アデル・エグザルコプロス。


(←この予告、映画の雰囲気とだいぶ違います。)

カサンドゥルは25歳。
格安航空でFAとして働いて2年半。
憧れのエミレーツ航空に移籍できる望みはほとんどなく、
「今」を楽しむ生活……

この映画、多くの部分が i-phone で撮られているそうなのですが、
その映像がなかなかいい。
空港内の歩く歩道とか、暗闇でたばこを吸いところとか。
ドキュメンタリー風でもあり、
日常的、たとえば TicToc 的でもあり。

また、格安航空のFAの仕事の現実リアルに描き、
そこもおもしろい。
(そんな職業でも、その仕事の細部って、たいていおもしろいです。)
アデルも、決して大仰な演技ではないのに、
(身体の)存在感があります。

これは、拾いものというか、
わたしは好きな映画でした。

『人魚伝説』

大学院ゼミ、院生セレクション、
今週見たのはこれです;

『人魚伝説』(1984)

テーマは、映画における身体性、です。
監督は池田敏春。
院生は、彼の古くからのファンなんだそうです。

舞台は三重県の志摩半島。
そこで、海女をしているみぎわが主人公です。
彼女は、夫とコンビで、アワビを捕る仕事をしているのですが、
ある日、この夫が、海上での殺人事件を見かけます。
これを調べていると、
今度は夫が殺され、彼女も命を狙われる羽目に。
で、この事情を探っていく内、
背後には、この土地を再開発して、
レジャーランド(後に、実は原発だと判明)を建設しようと企む男たちがいて、
彼らがこの一連の殺人に関わっていることが明らかになります。
みぎははそこで、行動を起こします……

この映画、なんというか気楽に見ていんのですが、
話が進む内、座り直すというか、
真剣に見始めました。
みぎはが抱いていた個人的な疑問、そして恨みが、
やがてもっと大きな構図と二層構造になっていたのです。
映画は、その辺をうまく描いています。
そして最後には、
その二層が溶け合ってゆくのです。
なんというか、
びっくりするほどちゃんとした映画でした。

この映画の、ラストや、さまざまな細部を、
こんな風に変えたらどうだろうと想像したんですが、
ことごとく、映画の方がいいと思えました。
これ、リメイクに値する作品だと思いました。

Lucifer

ネトフリのドラマ、

『Lucifer』

やっと見終わりました。
たぶん、今まで見たドラマで1番長かったんじゃないでしょうか?
6シーズンまであり、
それぞれが10話以上、
それぞれが1時間ほど。
ぜんぶで何時間かは数えたくありません!


Lucifer=悪魔 が地上にやって来たという設定の物語です。
この悪魔は、元天使。
ただ父親(=神)から天界を追われ、
(まあそれには事情があったのですが)
そのまま地獄の王となりました。
その彼が、父親の命令に背き、
地上にやって来たのです。
ここには、「偉大な父親に反抗する息子」のテーマがはっきり現れています。
しかも父親は神なので、
これはもう究極の「偉大な父親」です。

Lucifer は陽気で、酒と女か好きで、楽しいヤツです。
彼には、相手の本当の欲望を聞き出す特殊能力があり、
やがて、警察の民間顧問となり、
女性刑事クロエと組んで事件解決に当たり始めます。
ドラマ的に言えば、
この各回の事件が横糸で、
Luciferと神、あるいはクロエ、
あるいはLuciferの兄のアメナディエル(もちろん天使)、
セラピストのリンダ、
クロエの同僚のダンやエラ、
そしてLucifer を守ろうとする魔物(demon)である女性戦士メイズ、
たちそれぞれの、
そしてその関係の、
変化と深化が、縦糸だと言えるでしょう。

Luciferとクロエは美男美女で、
その点では古典的な作りです。
二人のクロースアップも多いと感じます。

そしてシリーズ4からは、
ネトフリの制作に変わり、
そこから明らかにトーンの変化があります。
より「ドラマチック」になり、
現代的な要素もより多く取り入れられるようになります。
1つだけネタバレするなら、
やがて、イヴやアダムも登場します。
ただしこのイヴは、
アダムに見切りを付けていて、
新たなパートナーを地上で探すことになります。
そして、この人類最初の女性が選んだのは……

あまりに長いので、
オススメすることはしませんが、
でも、最後まで見ちゃう程度には、おもしろかったです。

2023年3月20日月曜日

【丸の内本店週間ベストセラー】新書

丸善丸の内本店の、週間ベストセラー(3月9日~3月15日)の
「新書」の部門で、
なんと4位に食い込んでいました!


まあ正直言って、
「フランス語」は大きなマーケットじゃありません。
そんな中、たとえ発売最初の週だけでも、
こうして手に取ってくださった方が少なくなかったのは、
この本にとっても幸福なことでした。
ありがとうございます!

そしてアマゾンの方ですが、
以前は「その他の外国語」に振り分けられていたのですが、
なんとか「フランス語」に組み入れてもらえたようです。
これで検索されやすくなりました。
よかったです!

ラジオ朗読劇『銀河鉄道の夜』

『銀河鉄道の夜』を初めて見たのは、
ちょうど10年前の 3.11 でした。
そして今、「ラジオ劇」となって、
期間限定で無料公開されています。


ぜひ!


『テーラー 人生の仕立て屋』

ギリシャ映画で、
公開当時気になっていた映画、

『テーラー 人生の仕立て屋』(2021)

を見てみました。(アマプラ)


舞台はアテネ。
(公式HPには、細かい場所が示されていました。)
父親と二人でテーラーを営むニコ。
その隣には、夫婦と少女の3人家族が住んでいます。
ニコのテーラーは、今や経営破綻直前。
(まあ、ギリシャですから、
高級品であるオーダー・スーツが、
そうそう売れるとも思えないですね。
これはあくまでイメージで、無責任に言ってるだけですが。)
しかもニコの父親が倒れ、入院することに。
そんな中、ニコは「屋台」を作り、
それを引いて町に出て、服を売ることを思いつきます……

メイン・ストーリーは、
ニコの仕事の行方なんですが、
サブ・ストーリーとして、
隣の家族の奥さん、ロシア系(おそらく)のオルガとの、
淡い恋があります。
オルガの夫は、がさつなマッチョで、
無口でつつましいニコとは正反対。
しかもオルガは、
ニコの仕事を手伝うのが大好きなのです。

このサブの方の描き方を見ていて、
女性監督に違いないと思ったら、やはりそうでした。
これ、分かるんですよね。
女性監督の描く男性は。
(先日も書きましたが、
その反対はどうなんでしょう?
女性は、男性監督の描く女性が分かるんでしょうか?
おそらく、分かるのでしょう。)

映画自体は、
画角も、色彩も、とても丁寧に作られていて、
またセリフも少なくて、
それらの点はとても好感が持てました。

この主人公、
ジャック・タチと比較されているようです。
わたしは、特に似ているとは感じませんでしたが。

そして、
敢えて言うなら、
この映画の最大の弱点は、
ギリシャの「状況」において、
主人公が個人としての対応しか考えていないこと、
つまり、社会への視線が欠落していること。
そして女性が、
ぶしつけで威嚇的な男の元に戻ること。
そしてこれら2点を、
あたかも美談のように描いていること、
なのでしょう。

2023年3月18日土曜日

『揺れるとき』

アマプラにあったフランス映画、

『揺れるとき』(2021)

を見てみました。


舞台はロレーヌ地方、
ドイツ国境すれすれの田舎町、フォルバックです。
(最寄りの都会はメッス。)
その町の、低所得者用団地に暮らす4人家族。
離婚したてで、酒好きで、気性が荒く、
男好きで、家事はかなり手抜きで、たばこ屋で働いている母と、
仲間や恋人と遊び回っている長男、
10歳で主人公でもあるジョニー、
そしてその小さな妹メリッサ、
この4人です。

映画の冒頭は、
この母親が離婚し、家を離れる場面です。
そこから遠くない
(というのも、荷物を持って歩いて行ける距離です)
団地に引っ越すのです。
そしてその頃、
ジョニーの新しい担任が着任します。
この、若くて熱心な教師ジャンの影響で、
夢を描けなかったジョニーの意識が変わってゆきます。
ジャンはジョニーに本を与え、励まし、
またたまたま知り合ったジャンの恋人ノラ
(イジア・イジュランが演じています)
は、自分が勤務する美術館にジョニーを招待したりもします。
つまりジョニーは、
生まれて初めて、
文化資本というものに接する機会を得て、
そういう世界に魅了されます。
(先生であるジャンへの憧憬も重なります。)
が、現実は冷酷。
母親は、ジョニーが奨学金を得て寄宿学校に入るのを許しません。
幼いメリッサの面倒を見させるためです。
仕事もあるでしょうが、男と遊びたいのです。
そして兄も、手伝う気持ちなどまったくありません。
ジョニーは、マクドナルドで働くのはイヤだ、
ママみたいな仕事はイヤだ、
いい仕事に就きたい、
とはっきり言います。
でも、それは簡単には見えません……

ジョニーは頭のいい子で、
『ハマータウンの野郎ども』に描かれたような、
自ら進んで「労働者的な価値観」に入りこんでゆく子どもではありません。
脱出したいのです……

わたしには、
余計な要素もある気がしましたが、
フランスの田舎のあるクラスターの内実を見せている点では、
見るに値する映画だと思いました。
特にジョニーの母親は、
おそらく彼女自身に似た母親に育てられ、
これ以外の生き方を知らない人に見えました。
ジョニーのことは愛しているけれど、
愛し方もまた、こんな形以外は知らない……

そして「チャイルド・イン・タイム」。
映画が終わる数秒前には、
ああ、終わるんだな、と気づきます。

Merci !

岩田健太郎先生が、
Tweet してくださいました!


ありがとうございます!!

でもおっしゃる通り、
わが明治大学理工学部でも、
受験科目にフランス語を選ぶ受験生は減少傾向です。
なんとか裾野が広がってくれるといいんですが。
フランス語、やればおもしろいです。
まずはこの本から!(と宣伝に行き着く)

年金改革

フランスの年金改革問題、
ずっと注視してきて、
繰り返されるデモ、
その変化も追ってきて、
ここに来ての強行採択。
マクロンは、何度票読みしても可決できなさそうなので、
49.3(49条3項)を使って強行採択したようです。
これには、強い反発が起こっています。
「国民の声も、代議士の声も無視するとは」
というわけです。
その通りだと感じます。

国民の60%が、
日本から見ればかなり強烈なデモを支持。
そしてこの強行採択に反対する人は、
74%だと、France 2 は報じていました。

このままだと、
デモが暴力的なものになる可能性もあります。
黄色いヴェストの時のパターンです。
これは、多くの支持は得にくいわけですが、
結果がいいならそれでいい、
と考える人たちも少なからずいるわけです。
これはかなりデリケートで、
簡単には判断できませんが。

ゴミの収集が止まり、
道ばたにはゴミが溢れ、
それを狙ったネズミが大量に現れ、
ねずみ取り業者が繁盛する。
これが今、この瞬間のフランスです。

2023年3月17日金曜日

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

久しぶりに見た『スイス・アーミー・マン』が
やっぱりおもしろかったので、
その勢いのまま、


を見てきました。
今年のオスカー作品賞・監督賞などですね。
(オスカーそのものは、それほど興味があるわけでもないんですが、
今回は、お祭りに乗っかって楽しむことにしました。
院生たちとも話せるし。)

一言で言って、とてもおもしろかったです。
90点、という感じでしょうか。
ラスト近く、
意外にもメッセージ性が強く出ていて、
そこがわたしには少しマイナスでしたが、
トータルとしてはかなりおもしろいです。

物語は、
「多数の宇宙の運命」と「家族の運命」の、
二重構造になっています。
(そういえば、『ミズ・マーベル』もそうでした。

笑えるポイントはいくつもあって、
「オーガニック」
もその1つ。
(詳しくは書きません!)

また、途中、
ドゥビュッシーの「月の光」のメロディーが
かすかに聞こえてくることが何度かあって、
その回収のされ方にうなりました。
そのほかにも、
「やさしく歌って」など、
いろんな曲の断片が聞こえてきました。
きっと、わたしが認識できなかった曲も多くあったのでしょう。
どの曲も、まあ当然ですが、
そこで流れる「必然性」があるようです。

フランスのニュースを見ていたら、
今回のミッシェル・ヨーの受賞で、
マレーシアは大騒ぎだとありました。
彼女はかつての「ミス・マレーシア」で、
今もマレーシア国籍なんですね。
(フランス語のwikiには、
英語を話す中国系の両親のもと、
マレーシアで生まれた、とあります。)
大騒ぎになるはずですね。
もともとスターではあるわけですが。
(ちなみに日本では「ミッシェル・ヨー」と言ってますが、
英語でもフランス語でも、
「ミッシェル・イエオ」と言ってますね。)

2023年3月15日水曜日

Kenzaburô Oé est mort

大江健三郎さんが亡くなり、
Le Monde が記事を発表しています;


Kenzaburô Oé fut une incarnation 
de l’histoire intellectuelle du Japon de l’après-guerre, 
dans ses espoirs comme ses désillusions.


désillusions... たしかに……。

もうずいぶん前ですが、
日本人作家たちがポンピドゥーでシンポジウムに参加したとき、
鞄持ちとして同行したことがあります。
そこには、井上靖団長を始め、
大岡信さん、佐伯彰一さん、そして大江さん(やわたしの父親)もいました。
旅行後、撮った写真を大江さんにお送りしたのですが、
とても丁寧なお返事をいただき、
恐縮したことがあります。

わたしは、学生時代に読んだ、
『われらの時代』
が一番印象に残っています。
ご冥福をお祈りします。

『スイス・アーミー・マン』

『エヴエヴ』のダニエルズが監督した、

『スイス・アーミー・マン』(2017)

の話を院生たちとしたので、
久しぶりに見てみました。


この映画、とてもおもしろいんですが、
何かを言うのは難しいんですよね。

物語そのものはシンプルで、
無人島に漂着し、
孤独と倦怠の中で自殺しようとしていたハンクの前に、
ひとつの人間の体(生きてる? 死んでる?)が流れ着きます。
そしてこの身体こそ、後にメニーと名乗る人物(?)で、
彼が、スイスのアーミー・ナイフのように「役に立つ」ことが、
しだいに判明していきます。
奇想天外ですが、
とりあえずおもしろいし、
あまり「意味」を考えずに見ていると、
あっという間に見終わってしまう(いい意味で)怪作です。
A24らしい雰囲気もたっぷりあります。

このメニーとは何を象っているのか?
いろんな答えが可能でしょうが、
第一印象は、
もう一人のハンク、
あるいは、ハンクの中にある、可能性としてのハンク、
という感じです。
ハンクとメニーの対話は、
自分との問答のように聞こえるのです。

『エヴエヴ』も見たいんですが、
近場の映画館だと、
ちょうどいい上映時間がないんですよねえ……。

『西部戦線異状なし』

今回のオスカーで作曲賞などを受賞した、

『西部戦線異状なし』

を見てみました。
(オスカー発表の前です。)


これは、1930年の同名作品のリメイク。
(というか、レマルクの原作小説が同じ。)

第一次大戦の、終わりの1年半ほどが時間的舞台です。
ヨーロッパで1700万人が死んだ、
今も深く傷跡が残る戦争。
ドイツの暢気なワカモノが、
なんなら数週間でパリに行ける!
みたいなノリで志願兵となりますが、
到着した西部戦線は地獄だった……

この映画、
オスカーを獲ったから言うんじゃないですが、
音楽、というか、音響がとても印象的でした。
なんというか、今まで聞いたことがないような響き。
ゆがんだ、単純な音が、
冷たい大地を震わせます。
(予告編には出てきてません。)

また、1930年版との細かな異同はいろいろあるのでしょうが、
1つ目立ったのは、
ラストの扱いです。
ネタバレになりそうなので控えますが、
この新版は、韓国映画の『高地戦』を彷彿とさせました。


それにしても、
こんなひどい戦争をした数十年後に、
もう一度大戦争を始めた人類って……
(そして今日も……)

クスクス

昨日は、大学院ゼミの後、
今年度の打ち上げ(といっても、まだゼミはあるんですが)として、
クスクスを食べに行ってきました。
(院生たちは、クスクス初体験!
「映画ではよくみてますけど」)

クスクスと言えば、
やっぱり下北沢のクスクス・ルージール。
もう何回も行ってますが、
今回は初めて、クスクス・ロワイヤルを注文。
ラム、鷄、メルゲーズ。
どれもおいしい!
さすがです。


院生たちと、映画だと本だのの話をしていると終わりがなくて、
結局4時間、食べて飲んで話して、でした。
わたしも楽しいし、おいしいし、
いい一夜でした。

2023年3月13日月曜日

単純じゃない

『フランス語をはじめたい!』の表紙、
じつは、わたしもかなり気に入っています。
(カバーをとると現れる全身像もステキ。)
これは、もちろん描いてくださったじゃんぽ~るさんのおかげですが、
じゃんぽ~るさんにお願いしましょう!
と提案してくれた(ナイス!)若き編集者さんや、
デザイナーさんのおかげでもあります。
そして、何通りかのドラフトを見て、
意見を言ってくれた編集者さんの同僚のみなさん、
またわたしの同僚や知り合いたちのおかげでもあります!
そう考えると、
モノゴトって、単純ではないですねえ……
とにかく、ありがたいことです。

で、
今度はじゃんぽ~るさんが tweet してくれました。


そしてこの tweet に反応している r_goto さん!
先日の「朔太郎」では、
久々にお話しできてよかったです。
またお会いしましょう!
(って見てないか!?)

2023年3月12日日曜日

『17歳の肖像』

先日見た『ニューヨーク 親切なロシア料理店』の
ロネ・シェルフィグ監督。
ゼミで彼女の話が出て、
『17歳の肖像』のことを思い出しました。
今調べたら、2010年の作品で、
主演はキャリー・マリガン。
彼女をちゃんと見たのはこの時が初めてだった気がします。
(今となると、これの印象が強いです。


これは主演のキップが彼女です。
17歳だったキャリーも、お母さん刑事になろうとしています!

で、

『17歳の肖像』(An education)

を見直したんですが、
印象は当時と変わりませんでした。


1961年のロンドン。
17歳の優等生が、
ガミガミ勉強しろとうるさい父親の生活を見て、
また家庭に沈む母親の暮らしを見て、
その退屈さに押しつぶされそうになり、
つい、甘い幻想を振りまく年上の男に吸い寄せられる、
という物語です。
少女はフランス語を勉強していて、
パリに憧れていて、
時々不意にフランス語をしゃべります。
(そしてラテン語に苦しんでします。よくわかります!)

最後は、苦みを残しながらも、
ハッピーな方向、という感じ。
ロネ監督らしい、というところでしょうか。
これはこれでいいと思いました。

カリンさん

大学のフランス語の授業では、
フランス関連の本を読んでブック・レポートという課題を、
もうず~~っと続けています。
でそれは、こちらで作った本のリストから選ぶことになってるんですが、
そのリストには、この本も含まれています。


で、この本の著者であるカリンさんが、
ツイートしてくれています。


ありがとうございます!

そしてなんといっても、
表紙とイラストが秀逸です!

2023年3月9日木曜日

4/4 『フランス語をはじめたい!』刊行記念 オンラインイベント

先日ちょっとお伝えしたイベント、
詳細が発表されました!


書籍付きの方だとちょっとだけ安いみたいです。
(が、送料がかかるので、ほんとにちょっとだけですが。)

オンラインなので、どこからでも参加いただけます。
よろしかったら!!



ドキュメンタリー × 3

春休み期間も、
好評につき(!)続行している大学院ゼミ、
今週はドキュメンタリー作品特集になりました。
見たのはこの3本。

『キョート、マイ・マザーズ・プレイス』(1991)
『娘は戦場で生まれた』(2020)
『物ブツ交換』(2018)

1本目は、大島渚が、
自分の母親の人生を、
「京都」という土地を通して振り返ってみせる作品です。


この母親は明治生まれで、
早くに夫を亡くし、
今風に言えばシングル・マザーとして、
大島監督を含む子どもたちを育てた人です。
わたしの印象としては、
いわばエッセイのようで、
一人の女性と、
その背後の時代と土地を透かして見せていると感じました。

2本目は、
シリア内戦を舞台にした作品。
いや、「舞台」なんて言うと、語弊があるかも。
そこは、紛れもなく戦場であり、
これはまさに、戦争をその内側から見つめた作品だからです。


見ている間ずっと、
胸が締め付けられるような感じでした。
アマプラで無料なので、オススメします。
来年度、学部のワールド映画ゼミでも使おうかと思っています。

3本目は短編で、舞台はジョージアの農村地帯です。
さまざまな商品を積み込んだトラックが、
その地方の村を順に巡り、
スカーフだのおもちゃだの靴だのを売って歩きます。
そしてそこでは通貨もないわけじゃないんですが、
むしろ多く使われるのは「ジャガイモ」です。
それが、より流通価値の高い「貨幣」なのです。


これはネトフリにあります。
これもおもしろいです。

言うまでもなく、
ドキュメンタリー作品もた~~くさんあります。
わたしはフィクションの方が好きなので、
それほど多くは見ていませんが、
今回は3本ともおもしろかったです。
(『物ブツ交換』だけは、もう何度か見てたんですが。)

2023年3月8日水曜日

書店デビュー!


おかげさまで、
今日、本屋さんにも並びました!
パチパチパチ!
上の画像は、近所の丸善のものです。
これから1ヶ月は、
この「新刊・新書」にいてくれるでしょう。
ときどき見に行きます!

2023年3月7日火曜日

se sandonner

内田樹さんの tweet を見ていたら、
こんなことが書いてありました;

お昼寝から起きてから文春から次に出る「ありものコンピ本」のゲラリタッチ。
あまり直すところがないので、さくさくと3分の1まで来ましたが、
こんな勢いで本を出してどうするんでしょうね。
背中がバリバリになったので、
今日の仕事はこれでおしまいにして、
サンドネをします。
je me sandonne


この最後の je me sandonne。
わたしたちも学生時代、
時々こんなことを言ってました。
つまりこれは、
「三度寝」をフラ語動詞(-er動詞)風にして
(しかもここは高級で、se coucher に合わせて代名動詞にして)
se sandonner 
という動詞を作る。
で、それを活用させているわけですね。

これって、
最後が「エ」で終われば-er動詞にして、
「イ」で終わればーir動詞にすればいいわけです。
当時わりとみんなが知っていて、印象に残っているのが、
(品がなくて恐縮ですが)
「夜這い(する)」=「ヨバイール」。
主語が「わたし」なら、活用&エリジオンさせてジョバイです。
もちろん当時でも、「夜這い」なんて、
ほぼ死語だったんですけどね。

『ニューヨーク 親切なロシア料理店』

タハール・ラヒム見たさで見始めたのは、

『ニューヨーク 親切なロシア料理店』(2020)

です。
結論から言えば、
わたしはいい映画だと感じました。
(評論家たちの意見は、概して厳しいようですが。)


舞台は現代のNY。
そこには古くからあるロシア料理店があり、
そこが中心的なトポスです。
縦糸は、大きく言って3本。
まずは、バッファローから、
小さな子ども二人とともにNYに逃げ出してきた女性クララ。
彼女の夫は、子どもたちに暴力を振るい、
その暴力から二人を救い出すため、
彼女は夜明け前に家を抜け出したのです。
けれども、お金もカードも泊まるところもない3人は、
大都会ですぐに窮地に……。
そして、NYで看護師として働くアリス。
彼女は同時に、教会で、「癒やしの会」を運営し、
悩みを抱えた人たちに手を差し伸べています。
また、ボランティアで炊き出しにも参加しています。
最後がマーク(タハール・ラヒム)。
レストランを経営していた彼は、
弟のやっていた麻薬ディーリングの共犯とされてしまい、
実質無実の罪で収監され、出所したばかり。
そしてささやかな出所祝いをしたのが、
あのロシア料理店で、
経営陣を意気投合した彼は、
そのままその店で働くことになります……

この3本の糸が、
次第に近づき、
やわらかく結びついてゆきます。

いわゆる「ヒューマン」な映画は、
ちょっと……ですが、
この映画の場合、
その「ヒューマン」加減が絶妙で、
過剰ではなく、
また背後の「現実」からも目を背けはしないのです。

監督のロネ・シェルフィグは、
デンマーク人女性で、
いわゆる「ドグマ95」に参加していた人です。
マークの描き方に、
女性監督たちによく見られる感触(「理想」化された男性像)がありましたが、
タハール・ラヒムが演じると、
それはとてもいい感じです。
(ふつうに現実的、とは言えませんが、
そういうこともあるかな、という感じ。)

料理店のオーナーをビル・ナイが演じ、いい感じ。
また、本筋とはあまり絡まないところで、
ケイレブ・ランドリー=ジョーンズが、
ダメダメで心優しい男を演じており、これも好感が持てました。

ちなみにこの映画、英語タイトルは当初、
Secrets from the Russian Tea Room
だったのが、その後
The Kindness of Strangers
に変更になったようです。
そしてフランス語版では、
Un hiver à New York 
これはこれでいいですね。

『ミス・フランス』

アマプラで見かけた映画、

『ミス・フランス』(2020)

を見てみました。
(この頃、あまりじっくり選ばないで、
とりあえず目についた映画はその場で見始める、
というのを時々やってます。
リストに入れちゃうと、結局見なくなりそうで。)


子どもの頃の夢が、
「ミス・フランスになること」
だったアレックス。
ただ彼は、そのご両親を交通事故で亡くし、
その後里親を転々とします。
そして今、24歳。
ボクシングでチャンピオンになった昔の同級生を見て、
自分も、
あの夢に挑戦しようと決心します。
「男」の体を手術したわけでもないけど、
「男女」なんか関係ないし!
というわけです。

物語は、こんなアレックスに協力的な仲間たち、
つまりアレックスが住むシェア・ハウスのメンバーたちの応援もあり、
次第に、コンテストを勝ち抜いていく過程を描きます。
で、最初の1/3くらいは、
スピードもあっておもしろいんですが、
中盤から、急にテンポ・ダウン。
なんというか、アレックスの挑戦に「意味」を持たせようとするあまり、
物語そのものの展開がおろそかになります。
(まあ、「停滞」の段階が、物語にはつきものですが。)
そしてたどり着いた結論も、
なんだか不明瞭……

フランスでの批判の中には、
結局自分の居場所に戻るだけの反動的な映画、
というものもあり、
アレックスを取り囲む人たちは特に、
この指摘が当てはまるようです。
年長の男娼ローラはいいキャラなんですが、
彼にとっては、
映画が終わった後も、
これまで通りの日常が待っているわけです……
また、「ミス・コン」というもの自体は相対化されてもいますが、
複数あるテーマがうまく収斂していない印象でした。




2023年3月5日日曜日

『誰かの幸せ』

わたしのお気に入りの映画に、

『きらきらしてる』(2010)

があります。


パリに行って、
この映画のロケ地をしらみつぶしに回ったのが、いい思い出です。
(結局、論文にはならなかったんですが。)

で、この映画で、
ユダヤ人一家の父親役を演じていたのが、
ダニエル・コーエンです。
この彼が監督した映画が、アマプラにあったので、
見てみました。
(日本では、劇場未公開)

『誰かの幸せ』(2020)Le Bonheur des uns...


この映画、出演者は豪華で、
ベレニス・ベジョ、
ヴァンサン・カッセル、
フランソワ・ダミアン、
などが出ています。
みんな主役級ですね。

話は単純で、
まず2組のカップルがいます。
で、その一方の女性レアは、
モール内の洋服屋さんの販売員で、
カレシからも、もう一方のカップルの女性からも、
「下」に見られ、
「下」にいる存在として可愛がられています。
けれどもレアは、小説を書き、
それが大手で出版されたばかりでなく、
大ヒットとなり、
時の人となっていくのです。
レアはいい性格なので、
彼女自身は変わらないのですが、
周りはそうはいきません。
「下」にいたはずのレアが、
突如手が届かないくらい「上」に行ってしまったからです……

映画としては、50点。
見ても見なくてもいい感じ。
レア以外の人物は戯画的で、
まあ言ってしまえば、あまり興味が湧かない人たちです。
一方レア自身はと言うと、
あまりにお人好し、というか、
甘ちゃんというか。
じれったいです。

しかもラストも、中途半端。
途中の会話場面も長すぎる……。
というわけで、やっぱり、
50点が精一杯、かな。
豪華俳優がもったいなかったです。

『ブルーズド ~打ちのめされても』

ハル・ベリーが監督・主演した作品、

『ブルーズド ~打ちのめされても』(2021)

を見てみました。


総合格闘家としてな華々しくデビューした後、
幼い一人息子と引き離された傷心の中で惨敗し、
今は家政婦として働いているジャッキー。
彼女のパートナー兼マネージャーは、
仕事もしない飲んだくれで、
DV男でもあります。
(なぜこんな男と付き合い続けてきたのか、
それは彼女の悲惨だった子ども時代と関係がありそうです。)
そんな中、
このパートナーが、無理矢理彼女をあるファイト・クラブに連れ出し、
そこで戦うように仕向けます。
そしてその戦いぶりを見かけたあるプロモーターが、
彼女に接近し、復帰の話を持ちかけます。
乗り気じゃない彼女でしたが、
ちょうどそのタイミングで、
幼い息子が戻ってきました。
彼の父親が死んだのです。
ジャッキーは、復帰を決意します……

まあ、よくある話と言えばそれまでですが、
ハル・ベリーはまさにブルーズド(あざをつけられた)で、
ファイトのシーンもそれなりに緊迫感があり、
エンタメとしてはおもしろかったと思います。
彼女のセクシャリティーの揺らぎも、
意外な感じで挿入され、
そこはうまく効果を発揮していたと思います。

ハル・ベリーにしても、
シャーリーズ・セロンにしても、
役の幅が広くて感心します。

2023年3月4日土曜日

『その日がやって来る』

最近ネトフリで公開されたばかりのミニ・シリーズ、

『その日がやって来る』(2023)

を見てみました。


舞台はボビニー。
時は大統領選挙前です。
青少年センターの指導員だったステファンは、
大統領選に立候補しているボビニー市長が街頭で遊説中、
たくさんのマスコミのカメラの前で、
この右寄りの市長を言い負かします。
それがきっかけで、なんと、大統領選に出馬することに。
結末では、選挙結果が出るわけですが、
むしろドラマのおもしろさは、
そこまでのプロセスにあります。
まさに「フランス」的なさまざまな政治的立場が、
ユーモアと皮肉交じりに描かれ、
わたしはおもしろかったです。

監督・主演は、ジャン=パスカル・ザディで、
彼は今回の作品を、
やはり監督・主演をこなしたこの作品の、
続編的な位置に置いているようです;


当たり前ですが、
たしかにテーマに連続性があります。

ステファンの母親を演じるのは、Salimata Kamaté。
彼女は、1956年にコートジボワールで生まれて、
当時はフランス領だったから「フランス人」になって、
1977年にフランスに来て、
やがてステファンを生んだ、という設定です。
また夫とは、分かれてから27年間経っているんですが、
この夫が登場して、一波乱巻き起こしもします。
サリマタ・カマテは、
『再興の花婿』では主人公の母、
『最強のふたり』ではドリスの母でした。
(ステファンの妻は、セネガル系という設定です。
ちょい役の警官の兄嫁は、コンゴ系だと言ってました。)

また、ステファンの選対部長(?)を務めるウイリアムは、
エリック・ジュドールが演じています。
彼は、この映画の主演でした;


これはおもしろい映画でした。

大統領候補の一人に、
過激な環境活動家でレスベアンの女性がいるんですが、
マリナ・フォイスがこの女性を演じています。
彼女の出演作はたくさん見てきましたが、
こういう、神経質で過激な女性、という役は、
彼女にとって1つのペルソナになってきているようです。
もちろん、コメディーなんかにも出てますが。

ボビニー市長を演じたのは、ブノワ・ポールヴールド。
『神様メール』はじめたくさん出てますが、
わたしは


が印象に残っています。

2023年3月2日木曜日

『荒野の7人』

先日『七人の侍』を見たので、
やっぱり復習しておきたい思って、

『荒野の7人』(1960)

を見てみました。
アマプラにもネトフリにもディズニー+にもなくて、
中古のDVDを買いました。
(でもあとから、YouTubeにレンタルがあるのを発見。
こっちにすればよかった!
こっちのほうが画質もいいです。)


まあ、同じ話です。
ただ、クライマックスの前に、
例のハリウッドの法則、
大団円の前に最大の危機が訪れる、
というパターンを踏襲していて、
残念ながら、それがうまく機能せず、
逆にユルイ感じになってしまいました。
その分、『七人の侍』のほうがいいかな?

また、「七人」の中の最年少の侍に当たるガンマンがいるのですが、
彼は最後、
助けた村の女性と恋仲になり、
そのまま村に残る選択をします。
まったくヘテロです。が、
『侍』では、その武士はややクィアな存在なのです。
そこも、『侍』に軍配が上がるようです。

比較するとおもしろいのは、
ああ、ここはこんなにはっきり移植するんだ、
と思える箇所が複数あること。
「7人」の内の一人が、「百姓/農民」の出であるとか、
最後に勝つのは彼らだとか。

でもまあ、
ユル・ブリンナー、
スティーヴ・マックイン、
チャールズ・ブロンソン、など、
豪華メンバーを楽しめました。

2023年3月1日水曜日

見本、デキ!


今日、見本が到着しました!

この画像だと分かりませんが、
意外に厚みもあります。

この企画のお話をもらってから9ヶ月、
あの時はまさに「企画」でしかなかったものが、
こうして手に取れる現実になって、
ちょっとしみじみします。
企画を立ててくれた若き編集者に、深く感謝です。
(いろいろわがままも聞いてもらったし。申し訳ない!)

もうすぐ本屋さんで見て頂けます。
よろしくお願いします!



『ヴァンパイア・イン・パリ』

Divines という強烈な映画がありました。


この映画、
今はネトフリで『ディヴァイン』というタイトルで見られます。
で、
この映画の主演、
Oulaya Amamra が再び主演しているドラマ、

『ヴァンパイア・イン・パリ』(2020)

を、やはりネトフリで見てみました。


6話なので、一気に見られました。

500年前、と言いますから、
ペスト後、という感じなんでしょうか、
パンデミック後生き残ったものたちの中に、
突然変異をしたものがいた、
彼らは、ただ血だけを飲んで、
数百年を生きる「種」となった……
という設定です。
そして、ある事件以来、
彼らのコミュニティを抜けていたある家族が、
コミュニティに戻るよう圧迫される、
その中で、価値観の、世代間の、生き方の、衝突が起きる、
という物語。

舞台がベルヴィルで、
ベルヴィル公園や大通り、
あるいは、バルベスとラ・シャペルの間あたりの目立つサウナが、
「彼ら」の密会の場所になったりして、
なかなかパリ気分が味わえました。
映像もパキッとしててきれいです。
また、「彼ら」が、
とくにヒロインが血を啜るシーンは、
奇妙にエロティックで絵になります。

吸血鬼、なわけですが、
まあ、温存された「前近代」が、
現代において制度変更を余儀なくされる、
ということの比喩だとも読めるでしょう。
ある種のハイブリッドの時代でもあるし……。
けれど「前近代」は、
なかなか消えてゆかないんですよね……

『パリ、ジュテーム』にも、
吸血鬼をテーマにした1本がありました。
ヨーロッパにおける吸血鬼のイメージとはどんなものなのか、
少し調べてみようかと思いました。
(当然、「血」のイメージも関連するでしょう。)