2023年1月28日土曜日

「寛永宮本武蔵伝」

神田伯山による講談、

「寛永宮本武蔵伝」(全17話)

を聞いてみました。


伯山による巧みな解説も挟まるので、
荒唐無稽なこの物語も、
そういうものとして楽しめました。
(これがYouTubeで無料っていうのが、
よく分からないんですが……。
完全に有料の価値があります。)

宮本武蔵のことなんて、
(そもそも時代劇があまり得意じゃないので)
ほとんど知りませんでした。
で、
この「寛永」宮本武蔵伝は、
虚言によって切腹に追い込まれた師匠の仇討ちのため、
佐々木小次郎巌流との対決を求めて旅する過程で、
さまざまな達人と出会いながら成長する武蔵を描き、
ついには、あの巌流島の決闘へと至る、
ひとつのロード・ムーヴィー的な物語です。
確かに構造は「仇討ち」なんですが、
実際は、さまざまな達人と武蔵の交流がメインなので、
あまり褒められない「構造」も、
それほど気になりませんでした。
(「平家物語」の本質は、
祇園精舎の鐘の声にあるのではなく、
血湧き肉躍る戦いの場面にある、
と言われますが、そんな感じです。)

それにしても、
神田伯山、ほんとにぜんぜん噛みません。
そして緩急自在。
プロはすごいですね。

2023年1月27日金曜日

『ザ・リクルート』

ネトフリのドラマ、

『ザ・リクルート』

を見終わりました。


とまあこんな感じで、
大学を卒業したばかりの、
スリル好きのワカモノがCIAに入省して……、
という物語です。
彼を取り巻く人物たちが、
それぞれに個性的で、
大人のドラマです。
ストーリーは展開が早く、
ちゃんと見てないと置いていかれそうですが、
特に後半は楽しめました。
ただまあ、それほど何か言いたいことが出てくるようなドラマではないんですが。

ハードなスパイ役を演じたローラ・ハドックという女優が、
印象に残りました。
オルガ・キュリレンコより好きかも!?

2023年1月26日木曜日

『パッション』

濱口竜助監督のデビュー作、

『パッション』(2008)

を、大学院のゼミで見ました。
院生のセレクションです。


院生たちの評価は高かったです。が、
わたしはあまり乗れませんでした。
脚本が、特にセリフが、
(まあ、あまり言い言い方じゃないんですが)
ややナイーブ過ぎると感じました。
ゲーム的で、
書いている「手」が見えて、
しかも深さはあまり感じませんでした。
まあ、もともとこういうワカモノたちの浮気がどうの、
みたいな話には、あまり惹かれないんですが。

ただよかったところもあって、
それはちょうど予告編に写っている煙突です。
実際には、あの煙を吐く煙突が映し出されているときに、
一人の女性の祖父の、臨終間際の「奇跡」が語られます。
彼は復活したのです。
そしてもし周囲がそれに気づかなかったら、
彼は荼毘に付されていただろう、と。
このエピソードを聞かされると、
延徳と煙は、
どうしても、火葬場のそれに見えてきます。
もちろん、違うでしょう。
でも、死が、
もうもうと湧き上がっているように感じられるのです。
そして映画と冒頭と終わりには、
26年生きた猫を弔うシーンがあります。

「「朔太郎と歩く」詩と歌の夕べ」

来る2月15日、
下北沢のB&Bでのイベントに参加します。

「「朔太郎と歩く」詩と歌の夕べ」

『朔太郎と歩く』(明治大学総合芸術系)刊行記念


第1部では小島ケイタニーラブと管啓次郎による、
         朔太郎の詩をうたうミニ・コンサート。
第2部では新井高子、田野倉康一、坪井秀人による、
         朔太郎詩の魅力をめぐるミニ・シンポジウム。
幕間には倉石信乃+篠田優による映像作品『国定忠治の墓2022』を上映し、
清岡智比古は自作朗読で参加します。


という感じです。
よろしければ!







2023年1月23日月曜日

RIP 向井アナウンサー

TBSの向井アナウンサー、
お亡くなりになったんですね。


彼とは、
もう40年ほど前、
わたしが院生で彼が学部生だった頃、
総勢10人の学生でヨーロッパ旅行に行きました。
ある新聞社が開催した論文コンクールの副賞でした。
たしか10日間ほど。

当時彼は、
大学の傍ら、
アナウンサーを目指して別の学校にも通っていて、
なんとしてもアナウンサーになりたい、
と言っていました。
その後テレビで顔を見かけ、
ああ、なれたんだな、よかったな、
と思っていました。

40年前に旅行した以外は、
その後、1,2回会っただけですが、
まあテレビで見かけることがあるので、
元気にしてるんだな、
と思ってたんですが。

ちょっと早すぎますね。
Requiescat in pace......

2023年1月22日日曜日

『マッドマックス 怒りのデスロード』

『姫とホモソーシャル』の第1章が、

『マッドマックス 怒りのデスロード』(2015)

についてだったので、
読む前に見てみました。
(今までスルーしてたので。)


なんだか、なんとなく思っていたのとゼンゼンちがう話でした。
わたしたちは、もともとの「マッドマックス」シリーズを知っているので、
あまりの新しさに驚きました。
ただ、問題はその「新しさ」の質です。

まずは画面の質、そして音、
これはもうまったく違います。
そして、
『姫とホモソーシャル』で紹介されている研究者の指摘によれば、
以前のシリーズには「クィア」な人たちで溢れていたけれど、
今回はちがう、ということになります。
つまり今回は、男女二元論的なのです。
これはむしろ「後退」と呼ぶべきかもしれません。
(まあ、そう単純じゃないんでしょうけど。)

『姫とホモソーシャル』の中では、
この映画と宝塚歌劇団を対比していて、
おもしろかったです。
特に、
宝塚のショーにおける「男役が演じる女役」という概念(?)を使って、
シャーリーズ・セロン演じる女性隊長を論じているあたり、
なかなかスリリングでした。

読んだら、もう一度見たくなりました。
(アマプラ無料なので、また見ます!)

2023年1月21日土曜日

全豪/『ブレイクポイント』

西岡選手、ベスト16!
やりましたね! すごい。

今ネトフリで、

『ブレイクポイント』


というテニスのドキュメンタリーをぼちぼち見てるんですが、
プロの選手たちのテニスに賭ける気持ち、
想像を越えていました。
マッチポイントまで行ったのに負けた後、
「3日間眠れなかった」と。
わたしでさえ、
しょうもないへまで負けると、
悔しいというんじゃなく、
なんかこう、あ~あ、みたいな感じが、
その午後くらいは続くことがありますが、
もう、世界が違います。
全豪みたいな大きな大会で1つ勝つこと、
それがどれほどすごいことなのか、
だんだん分かってきました。

2023年1月20日金曜日

まとめレポート

授業によっては、
そろそろ最終レポートの時期になってきました。
すると、レポートの余白に、
授業の感想を書いてくる学生も(少数)います。
今日見たレポート(ワールド映画ゼミ)で、
ある学生は、
授業で出会った新しい概念や言葉のおかげで、
いろんなものが見えるようになり、
自分の中にもやもやあったものも言語化できて嬉しかった、
と書いていました。
そう言われると、
よかったな、とわたしもホッとします。
ただこれは、実際は、
この学生が優秀で、
勉強する気があって、
吸収する力もある、
ということなんですけどね。

この学生はまだ1年生。
これからもっともっと成長してくれるでしょう!

2023年1月18日水曜日

『野火』

今日の大学院ゼミでは、
院生セレクションで、

『野火』(2014)

を見ました。
塚本晋也、監督・主演です。


大岡昇平原作、
舞台は第二次大戦中のレイテ島、
と聞いただけで、
ある程度の「悲惨さ」は予想できますが、
その「悲惨さ」は、
いくつかの点で「ありきたり」ではないものでした。

この映画を見た誰もが感じるはずなのは、
戦場、戦闘における描写の、
これでもかという苛烈さでしょう。
それはたしかに、この作品の個性の一つです。
ただ、他の戦争映画と比べて「違うな」と感じたのは、
主人公が孤独である点です。
彼は、内地では「物書き」であり、
すなわち部隊内では「インテリ」であり、
しかも肺病持ちであると。
つまり、戦場においては、
もっとも役に立たない者、なのです。
その彼が、一つの目となって、
戦場を見つめる。
兵士たちを、彼らが投げ込まれ、
逃げ出すことができない地獄を見つめる、
そしてその地獄は、
見つめる対象であるばかりでなく、
かれもまた生きねばならないものでもある、
そして彼自身も、
銃で、消せない傷を抱え込むことになる……
というわけです。
ここには、(アメリカ映画的な)仲間同士の連帯や友情はありません。
主人公が生きる孤独は、
飢えに囲まれた苛烈なもので、
その分、根源的だとも言えるのでしょう。

ラスト、
戦地から帰還した主人公が、
書き物机に座って仕事をしているシークエンスがあります。
そこにきれいな女性が、
盆に載せた食事を運んできます。
彼女が立ち去ると
(本当には立ち去っていないのですが)
彼は、観客に背中を向けたまま、
おそらくは食べ物に対して、
ナニカをしています。
声を上げながらするその行為は、
なんなのか分からないのです。
でもこれは、わからなくていいのだ、と感じました。
これは、
主人公が戦地から持ち帰り、
彼の内奥に黒くとぐろを巻くナニモノカなのでしょう。
その、映画的表現が、
この不明な所作なのだと感じました。

若い世代に、ぜひ見て欲しい作品でした。

2023年1月17日火曜日

『姫とホモソーシャル』

かなり集中したゲラ直し、
やっと今日返送して、ちょっとホッとしました。
もちろんまだこれから、2校、3校と続くんですが、
なんといっても、
初校が一番直しが多いので、大変です。
また、あとで直すといろいろリスクがあるので、
やっぱり初校でいい形にしたいところです。
で、
かなりカラフルになってしまいました。
(昔、仲のよかった編集者が、
校正の時には5色ペンを使っていて、
わたしはそこまでいきませんが、
フリクションの細字を3色使い分けています。
ルビを直すには、細字が必須。)

今日、本屋さんで、

『姫とホモソーシャル ~半信半疑のフェミニズム映画批評』

という本を買いました。
半信半疑!? 
いいですね!
帰りにスタバでちょっと読んだんですが、
おもしろそう。
楽しみです。

2023年1月15日日曜日

カフェで

木曜の午後から、土曜の夜中まで、
(金曜午後のZoom 会議×3 の時間を除けば)
ほぼすべての時間をゲラ直しに使っていたら、
目はしょぼつくし頭はぼ~とするし肩は凝るし、
というわけなので、
今日は午後から、
雨の中近所のサン・マルク・カフェまで行って、
仕事を続行しました。

雨なのに、
ほとんど満席だったのですが、
勉強中のワカモノが多かったので、
かなり静か。
中には、共通テストの自己採点をしている人たちもいました。
(お疲れさま!)

そしてゲラは、
ワインとグリーンの2色が縦横に走り、
これはオペレーターさんにお手間をおかけすることになるでしょう。
(すみません! 初校なのでお許しを!)
今、2周とちょっとです。
火曜までに4周して、
返送するつもりです。

でもやっぱり、
ずっと家でやるよりよかったです。
みんなで勉強してる感じだったし!

2023年1月11日水曜日

「卒業写真」

今日のフランス語の授業、
試験前の最終回だったんですが、
これはもう10年以上ぶりくらいに、
「卒業写真」を歌いました。
(学生のうち、知っていたのは1/5ほど。)

歌詞と、
課題を出したときのヒントを、上げておきます。
よければ歌ってみてください。


25分30秒あたりからです。

*****************************

PHOTO SOUVENIRS

 

Quand parfois je suis triste à mourir

Je regarde mon album de souvenirs

Et j'y retrouve l'image d'un ami d'autrefois

Avec ses yeux de chat angora

 

Quand je l’ai aperçu à cette fête               

L’émotion m’a fait tourner la tête              

Il était comme un prince perdu dans un monde à part

Je n’ai même pas osé lui parler                           

 

Je me sens seule au milieu de la foule

Je pense à toi et tu ne m’entends pas

Comment vas-tu, que fais-tu ?

De mon côté, rien n’a changé

 

Dans le train je vois le chemin

Le chemin que je croyais sans fin

Nous le prenions toujours le soir après le lycée

C’était notre bonheur quotidien

 

Ce qui reste aujourd’hui à nous deux

C’est une trace d’amertume dans les yeux

C’est l’impression étrange que le passé prend son temps

Pour disparaîre au moment présent

 

Je me sens seule au milieu de la foule

Je pense à toi et toi, tu ne m’entends pas

Comment vas-tu, qui aimes-tu ?

De mon côté, rien n’a changé


chat angora    アンゴラ猫 その前に  ses yeux  とあるので、「アンゴラ猫」の目をしているのは、ami です。( je じゃありません。)

 aperçu<apercevoir  気づく <l’>=<le>(=him) 複合過去なので、目的語代名詞が助動詞の前に来ています。

fête  (友だち同士で開く)パーティー

fait faire : makemake ではあるんですが、ここでは「使役」のmakeと同じ使い方。faire +人+ inf. 「人に~させる」 またこの文では、「人」が代名詞 時制が複合過去なので、me が助動詞の前に来ています。前の行のaperçevoir の場合と、語順は同じ。)

perdu lost  (もともとはperdreloose の過去分詞ですが、今はもう形容詞。)

à part 「離れた」 形容詞句

oser inf. =dare (to) inf.  「あえて~する、思い切って~する」 ここは複合過去

même ここでは、形容詞(=same)ではなく副詞(=even)です。

Je me sens seule 動詞は se sentir。<se sentir +形容詞>で「自分を~だと感じる」。ここでは形容詞が○○○○形に置かれているので、「わたし」は○○だということになります。

croyais croirethink)の半過去形。ヨミガナ注意。またここでは(findに似て)<croire+~+形容詞>で、「~を……と思う」。で、「~」が(関係節の)先行詞になっています。

prenions prendre  の半過去形 和訳注意。

Ce qui reste... ce qui the things which ということは、ce qui の2語で(関係詞の)what とイコールと考えることもできます。フランス語には、関係詞のwhatに当たる1語はありません。こういう言い方になります。(関係詞のwhatが、関係節内で目的語の場合(ex. what I want)、フランス語では ce que になります。)

C’est l’impression étrange que ... c’est que ... は英語のit that... ... なのは~だ」。

prendre son temps 「(~が……するのに)時間をかける、時間がかかる」

2023年1月9日月曜日

The Capture


ネトフリで見かけたドラマ、

The Capture

を、一気に(といっても全8話)見ました。
見終わってから知ったんですが、
2019年、BBCで1番ヒットした作品だそうです。


題材の中心にあるのは、
いわゆるフェイク動画なんですが、
それを巡って、
アフガンからの帰還兵、
テロ対策部、
警察、
そしてヒロインである刑事、レイチェルなどが関わってきます。
後半、少し錯綜する感じがありますが、
前半はとてもよかったです。

レイチェルを演じたホリデイ・グレインジャーという俳優は、
わたしは初めて見ましたが、
このドラマの雰囲気にとても合っていて、魅力がありました。
(グリーンの服を着ると、瞳の色が際立ちます。)
キャラとしては、
優秀で、野心家で、小生意気で、「女」、
というところなんですが、
まれに垣間見せるそれ以外の部分が効いています。
(かつて「関係」を持っていた上司と言い合いになり、
君は僕が高いポジションにいる男だから付き合ったんだろう?
それで昇進もできたし、それでよかっただろう?
と男が言い放ったとき、
一言だけ言い返すのです、
そうじゃない、I liked you...)

たまたまなんですが、
来週、シーズンⅡが日本でも配信されるようです。
もちろん見たいですが、
ただ、わたしが使ってないところみたいで、
どうしましょう。

『文化財返還 ヨーロッパの最前線』

NHK・BS1スペシャルで、

『文化財返還 ヨーロッパの最前線』

という番組を見ました。


ヨーロッパの有名美術館、
特にケ・ブランリのような「民族博物館」を名乗っているような場所には、
多くの「盗品」が展示されていることは、
もうわたしが学生の頃から常識でした。
その「最前線」を取材した番組だったのですが、
とてもおもしろかったです。

話は、単に「それは植民地時代の盗品でしょ」
というような単純な話ではありませんでした。
ここ5年ほど、
フランスやドイツ、イギリスなどでは、
(マクロンの発言をきっかけにして)
返還競争のような事態さえ生まれています。
ただ、問題も多い。
まず、返還するにしても、
返還後の保存の問題もあるし、
そもそも誰に? という問題があります。
たとえば、ベナンからヨーロッパに持ち込まれた金属製の像、
これは、
ナイジェリア政府、
ベナン王国がかつてあった土地の自治体、
ベナン王家の子孫、
などが所有権を主張しているのですが、
驚くのは、
この像が、そもそも、
奴隷を売却したときに、
当時の支配層(王家)に対して支払われた金属を溶かして作られたものだ、
ということです。
1体の像の背後には、1~2人+α の奴隷の存在があるのだと。
この点を踏まえて、
だからこそ、これは、その後奴隷たちが旅立った、
アメリカやヨーロッパにあったほうがいいのだ、
という主張もあるのです。

難しいです。
その分、番組としてはおもしろかったです。

2023年1月6日金曜日

『ローマの休日』

アマプラで無料だったので、
つい、何十年振りかで

『ローマの休日』

を見てみました。
日本での公開は1954年なので、
『ゴジラ』と同じ年です。
(この年、モンローが日本を訪問してもいます。)

ラブ・コメなので、
気楽に見ていたんですが、
あまりにうまく作られているので、驚きました。
構成も、テンポも、物語の起伏も、
連続する表層の問題も、
深いところで進行する実存的問題も、
お手本のような作り込まれ方。
随所に、シンボリックなイメージも(わかりやすく)挿入されているし。
この時代に、「文法」はここまでできあがっていたんですね。

で、
今見ると唯一の弱点にも見えるのが、
ヒロインの「王女」という設定。
そして彼女が、
近代的個人としてではなく、
世襲の君主制を肯定する生き方を選択すること、なのでしょう。
王女であるオードリーが、
花屋から花束を渡される場面。
店主はムリヤリ渡して売りつける算段ですが、
花をもらい慣れている王女は、
Oh, thank you.
と言ってもらおうとする。
ここはおもしろいのですが、
落ち着いて考えると、「?」という気もしてきます。
まあ、エンタメにそれを求めるな、
という意見があるのも分かりますが。

というわけで、
映画としてのデキの良さが、
体現してしまった価値観と齟齬を来たしている、
というのが、
久々に見た感想でした。

ちなみに有名な話ですが、
脚本は、実はトランボが書いていたことが、
後に発覚しました。

2023年1月4日水曜日

『パリ13区』

これも去年の春に話題になった映画、
ジャック・オディアール監督の、

『パリ13区』

を見てみました。


物語は、ものすご~くざっくり言うと、
いわゆる三角関係です。
まずは台湾系の女性。
彼女は祖母の持っているアパルトに住み、
無職ないしバイト中で、
シアンス・ポの出身だと言ってましたが、
たぶん冗談なのでしょう。
(あとのフォローがないので、曖昧なままなんですが。)
そしてアフリカ系の男性。
彼はイヴリーの高校のフランス語の教員で、
ただ今は、休職して上級資格の試験準備中です。
最後が(ノエミ・メルラン演じる)白人女性。
ボルドー出身の彼女は32歳で、
大学を中退した後、
叔父さん(と関係を持っていたわけなんですが)の不動産業を、
10年手伝っていたと。
そして今パリに出てきて、
トルビアック通りのパリ1に復学したところです。
ただ一方では、
(おそらくお金のために)
ネット上のポルノサイトでバイトしていて、
それが現実に影響を与えてしまいます。

99%モノクロの画面。
なので残りの1%は、どうしたって鮮烈です。
(エロティックなシーンですが。)
そしてそのモノクロの中で、
これはセックスについての映画なんだろう、
というつもりで見ているわけですが、
途中から、
もしかしたら愛についての映画かもしれない、
と思わされます。
この辺、
つまりセックスと愛の関係の、
前提となる一般的な捉え方自体が、
アジアとヨーロッパではかなり違うので、
となるとこの映画の受け取り方も、
ずいぶん違うんだろうという気がしています。
で、映画としてどうなのかというと、
どうかなあ、
という感じで見ていましたが、
見終わってみると、
悪くないな、と思いました。
(『パリ、ただよう花』


よりだいぶいいと思います。)

ただ……
この映画のHPを見ると、
「誰も見たことのないパリがここにある」
なんて書いてありますが、
もちろんこれは、いくらなんでもムリがある、と言うべきでしょう。
この映画の原題は、

Les Olympiades     Paris 13e

なんですが、
このオランピアッド地区については、
多くの本で言及されています。
(『エキゾチックパリ案内』でも、
わりと詳しく紹介しました。)
また、「描かれた」というレベルで見ても、
この地区は多くの映画に登場しています。
アクセスしやすいのは、
『パリ、ジュテーム』の中の「ショワジー門」でしょう。
この映画の舞台は、
最初から最後まで(「ショワジー門」じゃなく)オランピアッドです。
それ以外にも、ドラマ

Paris etc.   


これ、好きなドラマでした。
そして2003年のこの映画、


そして以前論文も書いた


それからこれも。


それからこれも。


もちろんこれですべてではないでしょう。
(ウェルベックの小説の主人公も、
オランピアッドではないにしても、13区に住んでたし。)

というわけで、「誰も見たことがない」は、
たとえ宣伝文句であっても、いくらんでもムリなのでした。

2023年1月3日火曜日

びっくり!

あの石田ゆり子さんが、
フランス語を勉強なさっているという話を聞き、
どんな感じなんだろう?
と思ってインスタを見てみました。
すぐに、study time という動画が見つかりました。


おお、ほんとだ!
しっかり勉強してらっしゃるんですね~。
素晴らしい!
ただ……、

Il faut du temps pour réaliser ce projet.

あれ、この例文、どっかで聞いたことがあるぞ。

Il faut attendre 3 minutes.

いやいや、これはゼッタイ聞いたことある!
ていうか、声も知ってるし。

Il est intéressant d'apprendre des langues étrangères.

ああ、もう間違いない。次は「スーツを着る必要なはい」のはず。

Il n'est pas nécessaire de mettre un costume.

ほらね!

というわけで、
これは、わたしが数年前に作った
『ル・フランセ・クレール』
という教科書の例文です。
きっと、フランス語教室などで指定されたテキストなんだと思いますが、
それにしても、こうして使って頂けると嬉しいです。

なんだか、不思議です。
年明けの、このテキストを使っているクラスで、
紹介することにしましょう!

『ドライブ・マイ・カー』

新年1本目は、
1年前くらいによく話題になっていた

『ドライブ・マイ・カー』(2021)

を見てみました
なぜ、こんなに見るのが遅くなったのかと言えば、
わたしは基本的に、
芝居の演出家だの、小説家だの、画家だのが主役の映画が、
あまり好きじゃないからです。
そういう映画は、往々にして、
肥大化した自我が画面に横溢し、
こちらは辟易してしまうからです。
で、この映画も敬遠していたのですが。


でも、さすがにこれは評判通り、
いい映画だと思いました。
映画的な印象的なショットもあり、
クルマ走る場面が多いので、
動きの感覚とそれと対照的な静の場面も生きていてるなあと感じました。
ただ……
これは自分でもほとんど難癖のように感じますが、
ちょっと、登場人物たちの言語能力が高すぎる気がしました。
こんなに、感覚的、ないし抽象的な事柄を、
しっかりと言語化するっていうのは、至難の業。
よっぽど訓練しても、
ここまでの言語能力を獲得するのは難しいんじゃないでしょうか。
ちょっと現実離れしていると感じました。

わたしは、ハードボイルドなものが好きなので、
たしかにいい映画だと思うんですが、
やっぱりこれは「文学」的だなあ、
と思ってしまうのでした。

2023年1月2日月曜日

「ゆるい職場」

一頃は、
「ブラック企業」というものがやり玉に挙げられていた時期がありました。
(今もなくなったとは思っていませんが。)
そしてこのニュースでは、
「ゆるい職場」もまた、
ワカモノは不満で、離がちだと言います。


これ、実はリアルにワカモノから聞かされたことがあります。
給料もそこそこいいし、人間関係も悪くないし、
通勤時間も長くない、でも、
仕事がつまらない、と。
この「つまらない」というのは、
成長の実感がない、ということなのでしょう。
こう言っていたワカモノ(女性)は、
その後転職し、
「成長スピードがハンパない」
と言っていました。
やっぱりそこがポイントだったのね、
と感じたわけです。

まあまあの給料で自分の時間を大事に、
というのがトレンドだと言われていますが、
一方では、やはりつねに、
成長したいと思っているワカモノたちもいるのです。
彼らにとっては、
「ゆるい」、つまり成長の実感のない職場は、
「つまらない」ものなのでしょう。
わたしは彼らを応援したいと思います。

2023年1月1日日曜日

Bonne année !



あけましておめでとうございます。

今年の楽しみと言えば、
まずは、3月の新書刊行です。
しかも!
つい先日、
イラストをあの人に描いてもらえることになりました。
「ふらんす」でお馴染みの!
と言えば、もうお分かりですね。
うれしいです!

みなさまにとって、よき一年となりますように……