2008年9月2日火曜日

難!


「まいにちフランス語」を聞いてくださっているみなさん、今週の内容は、ちいと込み入ってますね? ここは実は、初級フランス語文法の中盤のヤマなんです。

とはいえ、練習問題に答えられるようになれば(ってそれがひと苦労なんですけど)、実際にフランス語を使うことに関しては、一応OKなんです。(なぜ「一応」が付くんでしょう? 実は、この人称代名詞と「似てるけど違う」表現があって、それと区別できるようになるっていうのも、初級の最後あたりには登場する内容だからです。ま、それはおいといて。)

ただね、せっかくフランス語まで手を出す欲張り(!)なみなさんのこと、きっと英語との違いも知りたいでしょう?(やっぱりね!)で、放送ではその点に触れられなかったので(なにしろたった15分!)、ちょっとここで補足させてくださいませ。テーマは、「フランス語と英語の間接目的語、どうちがうねん!」です。はっきり言います、これは「難」です!

まずは比べてください。

1-a) I give    this book to Mary.
1-b) I give her this book.

2-a) Je donne ce libre à Marie.
2-b) Je lui donne ce libre.

これはそれぞれ同じ構文(=文の形)ですね。もちろん、代名詞になった場合の語順はちがいますが。

さて、では「間接目的語」です。2)のフランス語については、赤字は両方とも間接目的語です。ただ、名詞か代名詞かのちがいがあるだけです。

問題は英語です。結論を言います。1-b) の her は間接目的語です。英語の文型で言えば、SVOO ってやつですね。直接目的語と間接目的語の両方があるので、OO と言うわけです。ちなみに、英語の間接目的語っていうのは、SVOO の時しか出てきません。(SVO と SVOC の O は、いつでも直接目的語です。)

じゃあ、当然1-a) の to Mary も間接目的語なんでしょうか? 実はこれ、英文法的に言うと、単なる修飾部なんです。もう少し細かく言うと、副詞句(=全体で1つの副詞のように働いている句)ってことになります。

でも、これちょっとへんじゃないですか? みんな基本同じ内容、同じ文型なのに、1-a) だけ間接目的語じゃないなんて。

また結論です。これは、へんなんです。間接目的語の定義から言えば、1-a) ももちろんそこに含まれます。(定義ですか? テキストの12ページ! ここ大事!)

じゃあなぜ、1-a) は間接目的語に入らないのか? 実は英語では、<前置詞+名詞>という形になったものは、ぜ~んぶ修飾部! というお約束があるからなんです!

(だからみなさん、もし中高生から「間接目的語ってなに?」と訊かれた場合、1-b) の例文だけを見せて、「この her みたいのが間接目的語」って説明すると、それはちょっと不十分だと思います。だってそれじゃあ、なにとなにが「間接(的)」なのか、ち~とも分かりません! 1-a) の例文も見せて、本来はこういう風に(間に to が入って)間接的につながってるものやねん! と言ってあげてくださいませ。 )

というわけで、最後にもう1つ。

3-a) I go     to school.
3-b) I speak  to Mary.

4-a) Je vais à l'école.
4-b) Je parle à Marie.

さて、色つきの部分の中で、「間接目的語」と呼ばれるのはどれでしょう? 答えは…… 4-b) のみです! Mais pourquoi ?

まずa のほうは、英語もフランス語も、そもそも目的語じゃありません。「学校」は、go/aller が働きかける対象じゃなく、単なる行き先として示されているだけです。(I love Mary. の love は、メッチャ働きかけてますね?)

で残る 3-b) ですが、これはもちろん、リクツの上では間接目的語です。なにしろ「話しかける」ですからね、どうみてもメアリーは「働きかける対象」です。でも…… そう、さっき触れたように、英語では、<前置詞+名詞>は、修飾部扱いなのでした。というわけで、間接目的語は4-b) のみ、ということになるわけです。

蛇足を1つ。フランス語は6文型あるんですが、これは英語の5文型+SVO です。でも……SVO って英語にもあったんじゃ? Oui, exactement. だけどこのフランス語のSVO の場合、O=間接目的語 なんです。つまりフランス語には、SVO が2種類、直接目的語の場合と間接目的語、両方あるのでした!

ね、「難」だって言ったでしょ? でもこれ、わたしもはっきり分かったのは、大学院の終わり頃でした! つまり、仏文科の学生の時は、うやむやだったんですね。だから当然、「難」じゃないと困ります!