2015年4月11日土曜日

『屋根裏部屋のマリアたち』

どうも、この邦題がピンとこなくて、
ずっと手に取らなかったこの映画、
『屋根裏部屋のマリアたち』
(Les femmes du 6ème étage)
を見てみました。
(本編の中では、日本風に「7階」ではなく、
「6階」と訳されていますが、
この場合はそれもアリだと思います。)

https://www.youtube.com/watch?v=EGLvov6bG_w

(今日は、以下、多少ネタバレあります。)

舞台は1962年のパリ、
「栄光の30年」驀進中のフランスは、
旧植民地はもとより、
イタリアやスペインなど、
ヨーロッパ系の移民たちも受け入れていました。
でこの映画は、
パリのアパルトマンを所有するブルジョワ夫婦と、
そのアパルトマンの「6階」(=屋根裏)の狭い小部屋に住む、
スペイン系移民女性たちの物語です。
とりわけ、
ブルジョワの夫であるジャン=ルイと、
彼のところで働く家政婦、マリアの関係の変化が、
メロドラマ的な縦糸となっています。
(あわてて付け加えますが、
これはわたしには、
なかなか楽しめる映画であり、
「メロドラマ」というのは、
決してけなしているわけではありません。)

舞台は1962年のパリだと書きましたが、
映画の終わり近くには、
1965年のスペインも舞台となります。
この3年間で、社会では何が変わったのか?
図式的ですが、
やはり、フランコのいたスペインで、
この時期、急激に経済が回復し始めたことが挙げられます。
だからこそ、
「今じゃ、トリブレ夫人(管理人)を悩ますのは、
ポルトガル系女性だよ」
という発言がなされるのでしょう。
スペイン系の女性たちの多くは、
帰国しているのです。
(一方、アンゴラでの戦争への徴兵を逃れるため、
70年代にポルトガル移民はピークを迎えると言います。
http://www.gakugei-pub.jp/kanren/gaikoku/no09/002.htm

また、6階の女性たちの中には、
バリバリのコミュニストもいます。
彼女は、フランコ軍に両親を目の前で殺されたのだ、
と語ります。
ただ彼女以外は、
基本的に信心深いカソリックの女性たちで、
一般にいわれるスペイン人女性のイメージをなぞっているようです。

この映画は、はっきりした「階級」の差異が、
やや戯画的に描かれています。
そしてその階級を越えようとする男女がいるわけですが、
ちょっと興味深いのは、
この飛躍に対し、
「資産家」の側からはもちろん、
「労働者」の側からも否定的なまなざしが向けられることです。
コミュニストも、信心深い女性も、
それぞれの「思想」によって、
この飛躍を潰しにかかります。
この辺りは、監督の人間理解の深さがうかがえる気がします。

空間的な扱いについて言えば、
これはとても単純に、
同じ建物の中の、
上の部屋と下の部屋、
に分かれていて、
おもしろいのは、
ブルジョワ夫婦のフロアーの奥の部屋には、
「上の部屋」へと上がれる階段があることです。
この階段が、2つの世界を繋いでいるようです。

もちろん、この主人公の年齢に達した「資本家」が、
こうした飛躍に踏み出すことは99%ないでしょう。
そもそも彼の社会認識があまりに甘くて、
そこですでに現実離れしているんですが、
そういう弱点があるにしても、
「スペイン移民もの」としては、
重要な作品だと思いました。

この映画については、
ネット上にいろんなコメントがありました。
中で印象に残ったのは、

「屋根裏部屋のマリアたち」はパリを舞台にしているのに、
パリらしい風景が出てこないのだ。
出稼ぎスペイン人にとっては、
仕事場と市場と教会と自分の屋根裏部屋が日常のほとんどなのだろう。」

なるほど。

また、移民歴史博物館のHPには、
こんな文章も。

Les deux vagues espagnoles additionnées,
celle de 1939 et celle des années 50 et 60,
constituent une très importante population,
qui atteindra les 600 000 personnes à la fin des années 60,
avant de décliner dans les années 70.
Les Espagnols remplacent peu à peu la migration italienne,
qui a tendance à se stabiliser dans ces années.
On les trouve dans le bâtiment mais peu dans l’industrie,
tandis que les femmes occupent des emplois de maison.

ほんとに減り始めるのは、
70年代に入ってからのようですね。

http://www.histoire-immigration.fr/musee/collections/vie-quotidienne-d-une-bonne-espagnole-a-paris-de-jean-philippe-charbonnier