2011年10月16日日曜日

『カニバル<食人種>』


昨日、『植民地を謳う』について書きましたが、
この本の冒頭には、1931年に開催された、
「パリ植民地博覧会」が紹介されていました。

この悪名高き博覧会については、
すでに何冊かきっちりした研究書が出ていますが、
わたしにとって印象に残っているのは、
小説『カニバル<食人種>』です。

これを書いたのは、どういう巡り合わせでしょう、
このところ何度か登場しているディディエ・デナンクスです。
(訳したのは、かつて明治の理工学部でも教えてらした高橋啓さん、
担当した編集者は津田新吾さんです。)

当時フランスは、フランス「本国」の20倍の植民地を持ち、
その世界中に広がる領土から物産品をかき集め、
それをパリで展示しようとしました、「大フランス帝国」万歳! というわけです。
まあそれもか~な~り問題ですが、
さらにまずいのは、「人」も展示したことです。
しかも、たとえばニュー・カレドニアの人たち100人の場合は、
パリ旅行でも行かない? みたなノリで連れ出しておいて、
パリではなんと「食人種」を演じさせられ、
外出禁止、しかも冬なのにまともな服も、さらにはまともな食事もなし、
という扱いを受けます。
しかもフランスは、彼らのうち30人をドイツの動物園に貸し出す始末……

「彼ら」は人間と動物の間の存在で、
我ら文明の絶頂に位置するフランス人は、
「彼ら」を教導する責務がある、
……とフランス人は思ったわけでしょう。
(もちろん全員ではありません。
この博覧会にはっきりと反対した、
たとえばブルトンをはじめとするシュルレアリストのような人たちもいました。)

デナンクスの『カニバル』は、この事件を題材として、
ドイツに連れて行かれた恋人を探し求める男の話です。
2人は、カナキー(ニュー・カレ)ではいつも一緒だったのに。
彼は友だちとともに、1931年のパリを歩きます。
バルベス・ロシュシュアール駅前で、大暴れします……

解説で高橋さんが言うように、この時代は、
世界恐慌と第2次大戦の狭間であり、
ヨーロッパ人にとって、この博覧会は些細な出来事だったかもしれません。
けれども、カナク(ニュー・カレの先住民)たちにとっては、
些細どころじゃなかった。
サッカー・ファンなら覚えているかもしれませんが、
かつてレ・ブルーに、カランブーというカナクの選手がいました。
彼の曽祖父は、この博覧会に連れて行かれた一人だそうです。

たった80年前の出来事です。