2018年11月7日水曜日

La Petite Venise

以前から気になっていた映画、

La Petite Venise(2011)

をやっと見ることができました。
(日本語版DVD
ある海辺の詩人 -小さなヴェニスで』
があるのですが、
ずっと品切れ状態で、
中古もだいぶ高価で買えずにいたのですが、
フランス語版はふつうに20€で売っていることに気づき、
そちらを買いました。)

https://www.youtube.com/watch?v=QWtXr0t7i1A

舞台は、ヴェニスの南郊の海辺の街、キオッジャ。
そこに働きに来た中国人女性、リーと、
周囲から「詩人」とあだ名されている老人、ベピとの、
淡く深い関係を描いています。

リーは福州出身。
故郷の実家に、8歳になる息子を預けています。
リーの家は、代々漁師でした。
はっきりとは語られないのですが、
いうまでもなく経済的な困窮から、
リーは出稼ぎを選んだのでしょう。
しかもその際、
仕事を斡旋する組織から前借する形でイタリアに渡り、
働いたお金で返済するという契約をし、
だからその返済が終わるまでは帰れないし、
息子を呼び寄せることもできないし、
仕事を選ぶことすらできないのです。
当初ローマにいたリーは、
ボスの一言で、キオッジャに赴きます。
若い中国人女性

一方ベピは、
ユーゴスラヴィア出身で、
もう30年以上キオッジャに暮らしています。
(ただ、ユーゴといってもプーラ(現クロアチア)であり、
ヴェニスからなら海を隔ててたった80kmくらい。
かつてはヴェニス共和国の支配地だったこともある場所です。
チトー大統領が亡くなった後の混乱の時代に、
イタリアに来たようです。)
息子夫婦は、ヴェニスの西側のメストレにいて、
老いた父親の面倒を見る気はあるのですが、
元漁師のベピは、この海を離れることを望んでいません。
漁師を引退したばかりの友人とつるんで、
ささやかな楽しみの中で暮らしていました。

リーがあてがわれた仕事は、
海辺のバーのホール係でした。
ここは、地元の常連がたむろする店。
そしてその中にベピもいて、
リーはここで彼と出会うのです……

すごく単純に言って、
中国語とイタリア語がまじって聞こえてくること自体、
新鮮でした。
ベピとリーは、言葉は交わさなくても、
移民が背負うものはわかっているのでしょう。
一方、イタリアの叔父さんたちの中にも小賢しい人はいて、
こうして中国人たちがこの街にいるのは、
一種の帝国主義であり、
リーのような女性は中国マフィアの手先なのだと言ったりします。
帝国主義だと言うなら、
まったくそんなことはないとは言えないのでしょう。
ただ、リーを働かせている組織は、
搾取的ではあっても、
マフィアではありません。

ヴェニスですから、
もちろん「水」は大きな役割を果たします。
そしてその象徴性はアンビヴァレントで、
苦みがあります。
わたしはなかなかいい映画だと思いました。
(日本語版をがんばって買って、
授業で見せたい気もします。)