2020年4月13日月曜日

『受取人不明』

今年の韓国映画、
キリのいい50本目なので、
満を持して(?)この映画、

『受取人不明』(2001)

を見てみました。
監督はキム・ギドクです。

https://www.youtube.com/watch?v=aI8rUnjhFc8

(←実際の画質は、こんなに荒れていません。)

実は、先日見た『殺されたミンジュ』のなかで、
ワルを追い詰める寄せ集めの集団が、
(こけおどしの)軍服を着ているシークエンスがあったのですが、
なんとその制服には、
<U.S. Army> 
の軍章があったのです。
つまりその私設の集団は、
ひとつには「アメリカ(軍)」なわけです。
勝手にやってきて、
勝手に裁くが、
自らも暴力的システムに侵されている……

で今回見た『受取人不明』は、
はっきりと「アメリカ」が前面に出ている映画です。

時代は1970年代。
韓国はまだ豊かではなく、
朝鮮戦争の記憶が残っている時代、ということでしょう。
場所は特定できませんが、
山に囲まれた田舎で、
米軍基地を擁しています。
そこで、3つの家族が暮らしています。

まず、母と息子が、
米軍の払い下げなのか、
バスで生活しています。
実は息子チャングクの父親は、アフリカ系の米兵で、
母親はアメリカに渡るべく、
帰国した夫に手紙を書き続けていますが、
それはいつも「受取人不明」で戻ってくるのです。
「ハーフ」とからかわれるチャングクは、
犬を残忍に殺しては、その肉を売りさばく男の下で働いています。
そしてこの男は、
かつて米軍のもとで働いた経験があり、
チャングクの母親の愛人でもあります。

2つ目の家族は、
父親と息子チフムです。
父親は、朝鮮戦争で敵(=同じ民族の人間)を3人弓で殺し、
自分は勲章を与えられるべきだと言い続けています。
チフムはおとなしく、また弱々しく見えます。
(キム・ヨンミンが演じています。
『殺されたミンジュ』ではもちろん、
『The Net』でも、
彼は印象的でした。)

3番目の家族は、
母親と、働かない息子と、18歳の娘ウノクです。
父親は、朝鮮戦争で殉死し、
勲章を受け、彼の遺族年金で、
3人は細々と暮らしています。
(が、途中で、
実は父親は戦死したのではなく、
北に逃げたのだと判明します。
家族は、監視対象に置かれます。)

つまり、それぞれの家族に子供がおり、
チフムとウノクは魅かれ合っており、
チャングクは弱いチフムを守ろうとします。

そしてここに絡むのが、
一人の若い米兵です。
マザコンである彼は、
異国の地での生活に耐えられず、
ウノクに近寄ります。
そして、基地内で目の手術を受けさせてやることと引き換えに、
恋人になることを求めます。
ウノクは、チフムの反対を振り切り、承諾します……

物語はシンプルで、
分かりにくい箇所はないんですが、
解釈は、かなり複雑になりそうです。
「アメリカ」を求め、受け入れられない家族、
「アメリカ」の内情に通じ、犬殺しを続ける男、
「アメリカ」とともに戦い、同胞を殺した父親、
「アメリカ」によって、見えなかった片目が見えるようになった娘、
自らの弱さから、韓国の少女に言い寄る「アメリカ」。
「犬」や「目」や「弓」が、
象徴的なものであるのは感じますが、
この象徴は単純ではなく、
それ自体多層的であるように感じます。
そしてまた、
それをきれいに切り分けることはできない気もします。

20年近く前の作品であり、
まだ煮え切っていない部分もあるのかもしれません。
音楽も、ジムノペディが流れたりして、
ちょっと意味が取りにくいと感じる箇所もありました。

わたしが見た範囲では、
キム・ギドク作品として一番いいのは、
『The Net』だと感じます。