4月11日『琉球新報』3面掲載記事より
(共同通信記者 阿部茂)
危機便乗は国民への背信
北朝鮮が「衛星」打ち上げとしている長距離弾道ミサイル発射実験が懸念される中、政府はミサイル防衛(MD)システムの地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を、沖縄県や東京都に配備。石垣島には自衛隊員約450人を配置し、海上配備型迎撃ミサイルを搭載したイージス艦も東シナ海に派遣するなど、自衛隊を大規模に展開している。
北朝鮮の核・ミサイル開発が、極東の平和と安定などにとって脅威なのは確かだが、政府の一連の対応は、「衛星」発射に便乗した過剰反応ではないか。通常なら批判を受けるような軍事的、準有事的な活動を、実態以上に強調した”脅威”の下で行うのであれば、国民に対する背信行為だとも言えよう。
北朝鮮はこれまで、米朝合意に反して核開発を勧めたり、ミサイル発射実験を繰り返してきたりした。日米両国はじめ国際社会の批判は正当なことだ。
だが、私たちは、日本政府が”脅威”を利用してきたことも自覚しておく必要がある。1998年の北朝鮮による長距離弾道ミサイル「テポドン」発射後、政府は高まった危機感を追い風に情報収集衛星の導入を決定。当時の高村正彦外相は非公式発言ながら「情報衛星は金正日の贈り物だ」と言ってのけた。
今回展開されるMDの導入目的についても、かつて外務省幹部らは取材に対し「対中国が本音だが、それは言えないから北朝鮮の核を理由にしている」と率直に認めた。
「ミサイル配備」「迎撃」などの」有事の言葉が政府当局者から平然と語られ、基地の外で自衛官が銃を携行する異常さも意識する必要があろう。
政府は石垣島など先島諸島に初めてPAC3を配備したが、今回の実験は核弾頭など兵器を積んだミサイルの発射ではないとされる。落下物があるとすれば失敗した場合の破片などであり、本島に配備の必要性があるとは考えられない。
「可能性」の問題であれば、韓国や中国の衛星打ち上げに際しても同様の対応が必要なはずだ。
政府の対応はむしろ①沖縄付近を通って海洋進出を図る中国を念頭に置いた演習やけん制②高価なMDの”有用性”の実証や、MDの日米統合運用の”演習”③南西諸島への自衛隊配備を進めるための環境づくり-などと考える方が自然だ。
北朝鮮が発射を強行した場合、日本はどうするのか。北朝鮮はすでに日本を射程に入れた中距離弾道ミサイル「ノドン」を配備しており、発射が日本への直接的な脅威増大となるわけではないことを踏まえる必要がある。
憲法改正論議も再開しているだけに、強調された”危機”が、9条改正論や敵基地攻撃能力の必要性などの議論に安易に結び付けられないよう、国民一人一人にも冷静な判断が求められている。