『俺はマンデラになる』(2020)
を見てみました。
ちょっと総花的なコメディーなんですが、
それがうまく嵌っていて、
またその総花そのものに意味があり、
わたしはとてもおもしろかったです。
この映画の原題は、
Tout simplement noir
なんですが、ここでの noir は「黒人」のこと
(前に On est とか Je suis とかが省略されている)
なので、
「ごく単純に黒人だっていうこと」
くらいの日本語になるでしょう。
もちろん、そのニュアンスはさまざまですが。
ジャン=パスカル・ザディは、36歳の黒人コメディアンで、
白人の妻と息子の3人暮らし。
(この映画では、この「黒人」「白人」は重要ファクターなので、
あえてそういう書き方をします。)
で彼は、フランスの黒人が被ってきた差別を告発しようと、
一大デモを企画します。
行進コースは、
レピュブリック(共和国)からナシオン(国家)までという、
デモの定番です。
(詳しくは、『エキゾチック・パリ案内』を!)
で、その宣伝のためもあり、
パリ市庁舎に単身押し掛け、大騒ぎをするのですが、
そこはあっという間に警官に取り押さえられます。
ただ、その一部始終を、
ドキュメンタリーにするために撮影していて、
それをSNSに挙げることで話題作りにしようと企みます。
で、この企みは成功します。
まず、人気黒人コメディアン、ファリーが、
テレビでこのヴィデオについて肯定します。
これを見たJP はファリーに会いに行き、
彼に、有名黒人を紹介してくれるように頼みます。
ファリーはOK し…… というお話です。
で、この流れから、
マジで黒人有名人がたくさん登場します。
(ただし、「黒人」と言えるかどうかビミョーな人もいて、
そのあたりから、そもそも「黒人」てなに?
みたいな話も出てきます。)
ちょっと挙げるだけでも、
テュラム、
ジョイスタール、
エリック&ラムジー、
ソプラノ、
マチュー・カソヴィッツ、
オマール・シー……
豪華でしょう!?
また久しぶりに、
アメル・シャアビの顔も見えました。
やはり「黒人」が重要である、この映画の監督・主演でした。
また、実は今ネトフリで視聴中の『ファミリー・ビジネス』に主演している、
これは有名ユダヤ人俳優、
ジョナタン・コーエンも出演していました。
でもわたしが特にウケタのは、
(つい先日、シャモワゾー役でも出会った)
リュシアン・ジャン=バテイストと、
Casa Départ の監督、ファブリス・エブエが言い合う場面です。
リュシアンがCasa Départ を「奴隷制をからかってる」と批判すれば、
ファブリスもまたリュシアンのこの作品について、
「黒人のステレオタイプだ」を言い返すのです。
するとリュシアンは、すかさずこう答えるのです、
「おれの作品は、黒人がどうのじゃなくて、
家族がテーマなんだよ、そう、ケン・ローチみたいな感じだよ」
いやあ、リュシアンの作品は、どれ一つとして、
ケン・ローチには似てません!
もちろんわたしとしては、どちらも好きですけど!
この場面は、単純におもしろいのですが、
「黒人」やその「歴史」を描くことの難しさ、微妙さ、
がユーモラスに、かつうまく表現されていたと思いました。
そして映画が終わった後に残るのは、
フランスで noir であることはまったくもって simple じゃない、
という事実なのです。