2023年1月18日水曜日

『野火』

今日の大学院ゼミでは、
院生セレクションで、

『野火』(2014)

を見ました。
塚本晋也、監督・主演です。


大岡昇平原作、
舞台は第二次大戦中のレイテ島、
と聞いただけで、
ある程度の「悲惨さ」は予想できますが、
その「悲惨さ」は、
いくつかの点で「ありきたり」ではないものでした。

この映画を見た誰もが感じるはずなのは、
戦場、戦闘における描写の、
これでもかという苛烈さでしょう。
それはたしかに、この作品の個性の一つです。
ただ、他の戦争映画と比べて「違うな」と感じたのは、
主人公が孤独である点です。
彼は、内地では「物書き」であり、
すなわち部隊内では「インテリ」であり、
しかも肺病持ちであると。
つまり、戦場においては、
もっとも役に立たない者、なのです。
その彼が、一つの目となって、
戦場を見つめる。
兵士たちを、彼らが投げ込まれ、
逃げ出すことができない地獄を見つめる、
そしてその地獄は、
見つめる対象であるばかりでなく、
かれもまた生きねばならないものでもある、
そして彼自身も、
銃で、消せない傷を抱え込むことになる……
というわけです。
ここには、(アメリカ映画的な)仲間同士の連帯や友情はありません。
主人公が生きる孤独は、
飢えに囲まれた苛烈なもので、
その分、根源的だとも言えるのでしょう。

ラスト、
戦地から帰還した主人公が、
書き物机に座って仕事をしているシークエンスがあります。
そこにきれいな女性が、
盆に載せた食事を運んできます。
彼女が立ち去ると
(本当には立ち去っていないのですが)
彼は、観客に背中を向けたまま、
おそらくは食べ物に対して、
ナニカをしています。
声を上げながらするその行為は、
なんなのか分からないのです。
でもこれは、わからなくていいのだ、と感じました。
これは、
主人公が戦地から持ち帰り、
彼の内奥に黒くとぐろを巻くナニモノカなのでしょう。
その、映画的表現が、
この不明な所作なのだと感じました。

若い世代に、ぜひ見て欲しい作品でした。