2010年8月31日火曜日

『96時間』


昨日は久しぶりに渋谷に行って、
いつもの打ち合わせをしてきました。
その途中、そうです、HMV渋谷店はすでに閉店し、
はやくも内装の取り壊しが進んでいました。
愛用してた店だけに、残念です。

         ◇

飛行機の中では、映画を見たり、落語を聞いたりして、
あんがい自分の i-pod は聞きませんでした。

何本か見た映画の中で、印象に残ったのは『96時間』。トレーラーです;

http://www.youtube.com/watch?v=OcMzSLaSar8

この映画、まず舞台がパリであること、
そして脚本がリュック・ベッソンであることに目をひかれました。
話としては…… 従姉妹のアマンダとパリに出かけた1人娘キム、
人身売買組織に誘拐されたらしい彼女を救出すべく、
元CIAの凄腕捜査官が単身パリへ乗り込む。ただし、
96時間以内に助け出さないと、彼女を発見する望みはない…… 

父親役はリーアム・ニーソン。彼は、ワーカホリックのために離婚され、
娘キムともなかなか会わせてもらえないような状況です。
しかも、EX妻の再婚相手は、どうやら大金持ちみたいだし。

こうして書いていると、作り物感がプンプンするわけですが、
正直に言うと、見ている間、そして見終わった直後は、おもしろいなあ、
と思ったのでした。
主役の父親の冷静な非道ぶり、その計算や論理、演出の軽やかさ、
ある種の美学が、いわば「いかんなく」発揮されているという感じでした。が……

なんとなく違和感が残るんですよね。
ネットでレヴューを見てみても、ほぼ絶賛状態なんですけど。

かつて『ターミネーター2』を見た時は、
これは「失われたアメリカの理想的父親像」なんだろうなあ、
と思ったのでしたが、今回の『96時間』にも、
そんな切り口がありそうです。
父親としてのアメリカ、という点も含めて。

そして見終わって数日して(おそ!)、やっとなにが引っかかるかわかりました、

まず問題は、(このへんからネタバレします)
従姉妹のアマンダ(彼女は男性にも「積極的」で、遊び好きです。)は
殺されてしまうこと。
一方キムはまじめで、ヴァージンで、
たまには親を騙すけれども基本的には従順で……

そうです、遊び好きの娘は殺され、
従順な娘は助け出される。
今回の誘拐は、父親にウソを言って旅行に出かけた罰だ、
おとなしく、親の言いつけを守って家にいれば、こんなことにはならなかったのに。

そして助け出すのは男しかない。
男の強靭な力だけが、弱い女を助け出せる。
たしかに悪者も男だが、それは男が「強者」だからだ。
結論:弱い女は、男に迷惑をかけず、黙って家にいろ!

まあ、これは穿ち過ぎだとは思います。
でも、『96時間』の底に流れる「道義性」とは、
こうしたメッセージとして理解できるのもだと思います。

(内田樹さんの『映画の構造分析』によれば、
アメリカ映画は「女嫌い」なんだそうです。
この映画も、その系譜にいれられるかもしれません。)

スーパーウーマン、ニキータやアンジェラを生んだリュック・ベッソンが、
なぜこんなちんけな隘路にはまり込んだのか、よく分かりません。
『96時間』、見ている間は面白かっただけに、
危なくだまされそうになったのが、やや悔しい感じもします。

面白くて面白くないこの映画、お勧めしちゃいます!?