2008年10月28日火曜日

『神々の山嶺』賛


『神々の山嶺(いただき)』は、夢枕獏作、谷口ジロー画の、なんというか、山岳マンガです。

全5巻で、しかもそれぞれの巻がそこそこ厚いので、読み応えがあります。1巻1000円なので、全巻揃えると安くはないです。が、ここには大事なもの、つまり感動があります。

舞台のほとんどはネパール、つまりエヴェレストのふもとです。そしてたまに、東京も出てきます。でも…… 

わたしは「東京派」なのですが、そんなわたしが見ても、エヴェレストの風景に比べると、どうも東京がせせこましく感じられます。冷たく厳しい山の様子は、もう「気高い」と言ってもいいくらいで、わたしは生まれて初めて、エヴェレストのような高い山に登ってみたいと思いました。(300%無理ですけど。)こんな想いが生まれるには、谷口ジローの絵が、どうしても必要だったと思います。

それにしてもこの作品は、表紙から受けた印象と、ずいぶん違っていました。こんなに緻密に、丁寧に積み上げてあるとは思っていなかったからです。

主人公は山岳カメラマン・深町。そしてもう一人、今は誰も行方を知らない伝説の登山家、羽生丈二。二人がカトマンドゥですれちがってしまったことが、この物語を引き寄せるのです。

重要な小物は、1924年製のカメラ、コダック・スペシャル。「そこに山があるから」で知られるマロニーが、エヴェレスト山頂付近で消息を絶ったとき、彼が持っていたはずのカメラです。

(マロニーの言葉に対して、羽生丈二はこう言います、「ここに俺がいるから」と。)

なんだかうまく紹介できなくてすみません。とにかく、印象に残るセリフも多いし、もちろんそういう絵も多いです。そして特に5巻には、清冽で激しいものが流れています。

素晴らしい作品だと思います。これがフランスで、manga として(Le sommet des dieux)評価が高いのも、嬉しいことです。さあ次は同じ谷口の、「『坊っちゃん』の時代」に突入します!