2017年9月2日土曜日

『闇の列車、光の旅』

先日、Hope という映画のことを書きました。

http://tomo-524.blogspot.jp/2017/07/hope.html

これは、最近見たものの中では、
特に印象に残る作品でした。

こうした移民の移動を扱った映画と言えば、

http://tomo-524.blogspot.jp/2014/04/in-this-world.html

などが思い出されますが、
先日そんな話をしていて教えてもらった映画、

『闇の列車、光の旅』(2009)

を見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=Q0ZKlsn720Q

この映画は、もちろん、この予告編が示したがっているような、
「愛と希望」の物語ではありません。

ストーリーラインは2つ。
一つは、メキシコの少年、カスペルの物語。
マラという、実在の強力な麻薬組織のメンバーである彼は、
掟を破って恋人を作っていました。が、
それを知ったリーダーは、彼女をレイプしようとし、
抵抗された弾みに彼女を殺してしまいます。
カスペルは、それが行われることを知っていて、
何もすることができません。
刃向かうことは、殺されることなのです。

もう一人は、ホンジュラスの少女、サイラ。
母を亡くし、祖母と暮らす彼女のもとに、
ある日、(おそらくは出稼ぎに出たまま)
10年以上不在だった父親が戻ってきます。
サイラは、この父親と、父親の弟三人とで、
アメリカに向かうことにします。
そこでは、父親の新しい妻と、
子どもたちが待っています。

そしてカスペルとサイラは、
アメリカへ向かう列車の屋根で出会います。
一方は、ギャングのリーダーとともに、
移民たちの金品を奪うつもりです。
一方は、新しい生活を求めて、
過酷な移動の途上です。
けれどもサイラを見たリーダーは、
その美しさに驚き、
すぐにレイプにかかります。
ただそのときカスペルは、
ついに自分を抑えられず……

この映画は、世間の評判も高く、
実際見ているときは、
はらはらのし通しで、
その引き込まれ具合は強烈でした。
サイラもカスペルもいいし。
もしまだ未見だったら、
これが見るべき一本なのはまちがいないでしょう。
(後期の授業では、これを見せようかとも思っています。)

ただ、2つのストーリーライン、
つまり「ギャング」と「移民」について言うと、
監督がこの2つを絡ませようと心を砕いているのはよくわかるのですが、
最終的には、
「ギャング」のほうがより強く印象に残るように思えます。
それは1つには、
旅立つサイラの日常や背景の描写が、
ほとんど皆無であるせいでしょう。
ディテールは、明らかに「ギャング」のほうが豊富なのです。
となると「移民」は、
ステレオタイプの中で認識される傾向が強くなってしまいます。
ここが、この映画の弱点だと、
わたしは感じます。

フランスでのプレスの評価は、
全体にとても好意的なものでした。
ただ、数少ない批判派の1つ、Le Monde の映画評は、
ハリウッドの映画文法に入れ込み過ぎたために、
内容が空疎になった、と指摘しています。
それも、わかる気がします。