ガザ地区でライオンが盗まれ、
ハマスがそれを助け出す、
というニュースがありました。
かすかに記憶があります。
http://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-26811420070710
で、今日見た映画、
Dégradé (2015)
は、この事件にヒントを得て作られたそうです。
ライオンを盗んだのは、
地元のワルの親分で、
見世物にして金を稼ぐだけではなく、
自分の力を誇示するためだったようです。
で、
フィクションとしての映画の中でも、
ライオンを盗んだのは、
やっぱりワルの一人なんですが、
ただし映画のほとんどの時間は、
このワルが住む家の、
わりと広い道を挟んで正面にある、
美容室(兼エステ・サロン)が舞台です。
https://www.youtube.com/watch?v=7HVf0A2Ntqk
このサロンは、
ロシアからの移民であるクリスティーヌが経営していて、
今日は彼女の小さな娘も来ています。
そして、1人だけの従業員ウェダッドは、
実はライオンを盗んだ男のカノジョです。
さらに今日は、このサロンに10人のお客さん。
たとえば、
このほかにも、
今日これから結婚式を迎える花嫁、
その母親、義母、義妹、
陣痛が始まった妊婦さんとその姉、
そして我らがヒアム・アッバス演じる、
ちょっと正体不明の、
でもその電話の内容からすると、
これから駆け落ちでもしそうな「熟年」の女性もいます。
サロンの中は暑いし、
なかなか順番は来ないし、
アシスタントのウェダッドは仕事そっちのけで電話ばかりだし、
店内の空気は次第に重く、ヒステリックになってゆきます。
そんなときです、
なんと、店の正面で激しい銃撃戦が始まるのです!
これは、
ライオンを奪還に来たハマスと、
ワルたちとの戦いでした。
女性たちは、身動き取れなくなり……
ちょっと舞台じみたこの映画、
わたしは、とてもいい! と思いました。
全体として何かが沸騰していく感じも、
個々の人間の描き分けも。
そして新鮮だったのは、
なんといっても舞台がガザであること。
ここで暮らす市井の人たちが、
ハマスをどう考えているか
(→マッチョなバカ者だ)、
イスラエルをどう考えているか
(→エルサレムの、ちゃんとした医者に行きたくても、
なかなか通行証を出してくれない意固地)、
ここガザでの暮らしを、どんな風に送っているか
(→この暮らしに慣れて、
満足じゃないけど、なんとか暮らそうとしている)
というようなことが、
言葉の端々に現れていて。
『オマールの壁』のハニ・アブ・アサド監督。
彼の『歌声にのった少年』もまた、
ガザが舞台のようです。
こちらも近々見てみましょう。
*Dégradé は、
「フランス・カタール・パレスチナ映画」です。
言語はアラビア語。
わたしはフランス語字幕版で見ました。
*このタイトルは、ふつうは、
「堕落した(←グレードを下げた)」
くらいの意味でしょうけど、
ここでは、表面上は、ある髪型のこと。
「段カット」ですね。
*同じDVDに入っている
短編は、セリフが一切なく、
赤ちゃんと夫婦がいるだけ。
そして、夜の砲弾の音に、
赤ちゃんが泣くのです……
*監督は、Arab とTarzan の、 Nasser兄弟。
次が楽しみです。