Audrey Estrougo 監督の作品、
今日は、
Taularde (『囚人』・2015)
を見てみました。
よかったです。
https://www.youtube.com/watch?v=LQSyvg2FsN0
主演はあのソフィー・マルソーなんですが、
ここでの彼女は、ドレスとも、パーティーとも、
イケテル男性とも無縁です。
彼女は囚人なのです。
高校の文学の教員であるマチルドには、
24歳になる息子がいます。
でも彼女は、
「無実だ」という夫の言葉を信じて、
彼を刑務所から脱獄させるのに成功します。
ただその代わり、彼女が逮捕され、
4年の刑を言い渡されます。
(実際は、2年で出所できると踏んでいます。)
つまり、夫と立場を入れ替えたわけです。
ところが、
いざ刑務所に入ってみると、
そこはマチルドの想像を絶する世界で、
同房の若いアフリカ系女性カンテには、いきなり、
わたしのものに触ったら殺す、
と脅されます。
しかも、これが大事なんですが、
脱獄したはずの夫から連絡がありません。
脱獄に協力した夫の弟からも。
さらに彼は、逃走中に人を殺したらしく、
それに使われた銃を用意したマチルドは、
最悪10年の懲役を食らいそうです。
マチルドは、いろいろ策を弄しますが、
結局、夫とは連絡が取れないまま。
しだいに夫不信に陥ります。
刑務所では陰惨な事件も起こり、
ついに彼女が、弁護士の忠告に従い、
すべてを話そうと決意した時、
事件は起こります……
この監督の作品には、
独特の緊張感があります。
特に、刑務所内ですべての物語が進むこの作品では、
その緊張が全編に漲っています。
ソフィー・マルソーはいい演技で、
見直しました。
新宿で『ラ・ブーム』を見たのが、
遠い遠い昔です。
またこの作品は、
女性群像劇の様相も呈していて、
所長 :アフリカ系女性
(昨日見た、Une histoire banale で、ヒロインを助けるMarie-Sohna Condé)
看守1:アラブ系女性
(『パリ警視庁未成年特別保護部隊』にも出ていたNaidra Ayadi)
看守2:ヨーロッパ系女性
(昨日見た、Une histoire banale の主演であるMarie Denarnaud)
看守3:ヨーロッパ系女性
(『戦争より愛のカンケイ』で、活動家の母を演じたCarole Franck)
(『最強のふたり』の Anne Le Ny )
囚人2:アラブ系女性
( つい先日見た Chouf で、主人公の恋人役だったNailia Harzoune )
幼い息子を抱きしめていました……)
看守1と囚人2は、ともにアラブ系ですが、
激しくやり合います。
看守のNaidra は、
そうした態度を所長にとがめられると、
アラブ系ってひとまとめにしないでください、
わたしはあいつとは違うんです、
と答えます。
<以下ネタバレ>
物語の終わり、
マチルドがある騒動の結果入れられた独房から出されます。
所長は彼女に、
逃亡中だった夫の死を告げます。
そして、死んだ今となっては、
もう隠す必要はない、と言って、
夫からの大量の手紙を受け取るのです。
夫は、連絡していたんですね……
特に印象に残ったセリフは、
所長がマチルドに言う、このセリフ。
... tu n'es pas plus forte que le système.
あんたは(ここの)システムより強くはないんだよ。
そしてまたこの所長は、
映画全体のラストのセリフとして、
こうも言います。
C'est 10 ans ou pas, tu sortiras avant moi.
10年かかるるにしてもそうじゃないにしても、
あんたはわたしより先に(ここを)出ていくんだ。
刑務所に関わる女性たちは、
それぞれにそれぞれです。が、
少なくとも今は、
このシステムのもとで生きてゆくしかありません。
たとえPQ(トイレットペーパー)が足りなくても、
三つ編みが許されなくても、
男がいなくても、
毎晩シラミにやられても。
そして看守だけは、仕事を止めれば、
出ていくこともできます。
(実際看守2は、「暴動」の真っ最中に、
もう無理、と言い残して帰ってしまいます。)
でももちろん、外には外の、
別の「システム」があるのです。
わたしたちは、みんな、taulard(e) なのでしょうか?