フランスではベストセラーになり、
日本でも話題となっている、
ウェルベックの『服従』。
これまで、あまり彼のいい読者ではなかったのですが、
今回ばかりは、
とても興味を持っていました。
なにしろ、2022年のフランスで、
イスラム政権が樹立されるという物語なんですから。
ウェルベックは、一般に、
イスラム嫌い、女性蔑視という評判で、
今回の小説にも、
そうした部分がないとは言えませんが、
ただ、
事前に伝えられていたような、
スキャンダラスな小説とは、
ずいぶん違うと感じました。
野崎歓さんの、
こんな言葉が、ネットで紹介されていました。
「今のフランスには
“自由・平等・博愛”といった共和国理念への疲労感、
特に自由主義への疲労感みたいなものが漂っています。
たとえば、フランスにおける結婚制度は、
アムール(愛)中心の個人主義を至上とするあまり、
完全に崩壊している。
自由に対する異常なまでの執着、
いわば“自由の原理主義”といったものが
『本当にフランス人に幸せをもたらしたのか?』
という問いですよね」
新作『服従』は
「必ずしもイスラモフォビックな内容ではなく、
現実味のない未来を描いて
“自由の疲弊”を強烈に批判したものとも読める。
ウエルベックが描くのは、
自分を抑圧するものから自由になっていくことのまぶしさと悲惨さ。
脱宗教化と多文化共存の中で価値が多様化し、
すがるべき価値が見つけられなくなっている、
共和国の原理への問いかけです」
http://ironna.jp/article/1017
さすがです。
わたしも、
(こんなに明晰にでは全然ないですが)
野崎さんが言われているようなことを感じました。
ほんとに、
疲れてるな、
という感じ。
もちろん問題は、
じゃあどうする?
ということになるわけですが。
ウェルベックは、
その思想的立場はともかく、
読者を引っ張ってゆく小説家としての技量は、
やはり大したものだと思いました。
「キッチュ」で、あざとい部分もあるのですが、
それも含めて。
主人公の名前は、「フランソワ」でした。