先日亡くなった那珂太郎さんの詩の中では、
おそらくこれがもっとも有名なもののひとつなのでしょう。
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繭
むらさきの脳髄の
瑪瑙のうつくしい断面はなく
ゆらゆらゆれる
ゆめの繭 憂愁の繭
けむりの絲のゆらめくもつれの
もももももももももも
裳も藻も腿も桃も
もがきからみもぎれよぢれ
とけゆく透明の
鴇いろのとき
よあけの羊水
にひたされた不定型のいのち
のくらい襞にびつしり
ひかる<無>の卵
がエロチックに蠢く
ぎらら
ぐび
る
ぴりれ
鱗粉の銀の砂のながれの
泥のまどろみの
死に刺繍された思念のさなぎの
ただよふ
レモンのにほひ臓物のにほひ
とつぜん噴出する
トパアズの 鴾いろの
みどりの むらさきの
とほい時の都市の塔の
裂かれた空のさけび
うまれるまへにうしなはれる
みえない未来の記憶の
血の花火の
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現代詩手帖8月号は、那珂さんを追悼していて、
やはりこの詩についての言及が少なくありません。
力のこもった論考もあり、
読み応えがありました。
それにしても、「ひかる<無>の卵」、
そして
「きらら/ぐび/る/ぴりれ」
というのは、
すごいですね。