2009年12月13日日曜日

フランコフォニー@早稲田



というわけで今日は、早稲田大学でのシンポジウム、「フランコフォニーを発見しよう!」に参加してきました。

1時半から6時半まで、5分休みを2回挟んだだけで、なかなか充実した会でした。10ヶ国の大使館員が集合し、彼らの話を聞くことで、会は進んで行きました。

第1部は「アフリカ」。ここではアルジェリア、カメルーン、ジブティ、ブルキナファソの大使館員が登場。これはきっとめったにないことで、圧巻でした。ただプレゼンとしては、まあ学生に焦点を合わせたということなのでしょう、やや型どおりの印象もありましたが。できればもっと、ミュージシャンとか、映画とかの紹介もあるとよかったかな、You Tube でも使って?

そして第2部は、「北米・カリブ海」。ハイチ、カナダ、ケッベクです。この第2部の終わりに、個人的には「本日のクライマックス」がありました。(あくまで個人的な印象ですよ。)

1通り話が終わり、質疑応答の時間になりました。で、まったく質問が出ない感じなので、わたしがつまらないことを訊いてみました。「ハイチの次の大統領がワイクリフ・ジョンだっていう噂がありますが?」

プレゼンのときは、むしろ事務的な感じだったハイチ大使は、今度はニヤニヤして答えました。

「確かに彼は貧困層の救援活動なんかをしてるし、政府の機関のメンバーでもあるけど、大統領はないかな?」

そういうと、彼はわたしを見て小さくウインクしました。そして次に出た質問は、「ハイチ(系)文学はケベックなどで黄金期を迎えているという紹介がありましたが、それはフランス語が、深い内容を書くのに適しているからですか? それとも……?」

それはどうでしょう? とわたしは思いましたが、割って入って答えたのはケベックの代表者でした。いわく、おっしゃる通りフランス語は、わがケベックの文化活動の原動力の一つです! 

で、当のハイチ大使は、ちょっとモゴモゴしゃべってましたが…… 

で、ついわたしは、(でしゃばりを顧みず)さらに尋ねてみました、ハイチの人のアイデンティティーは、クレオール語ではないのか? と。

ハイチ大使の表情が変わるのがわかりました。そして口調も、今までとは一変しています。

「わたしの父も母も、クレール語で話します。わたしもクレオール語で育ちました。だからフランス語は、わたしの母語ではありません。ハイチでは、教育を受けた者だけがフランス語を話すんです。そして国の大半を占める農民たちは、フランス語を勉強することはありません。みんなクレオール語で生きています。ということは、たとえばケベックにも、フランス語のできないハイチ系の人間はいます。ボートピープルと、彼らは呼ばれます。ハイチは、クレール語を公用語に定めました。わたしたちはクレオール語を話します。しかし、もしクレオール語しか話さないなら、わたしたちは孤立してしまうでしょう。わたしたちはフランス語を勉強するのです……」

彼は、わたしをみつめて話しました。彼の声音には、本音を語っている時の深さがあると、わたしは感じました。

そして5分休み。わたしがロビーにいると、ハイチ大使はわざわざやってきてくれて、手を差し出しました。

「ありがとう、さっきの質問。よく訊いてくれたよ」
「実は、メリッサ・ラヴォーもエムリン・ミッシェルも好きなんです」

エムリンの名前を聞いた時、彼はちょっと驚いた顔をして、握手していた手に一層の力をこめました。Je vous remercie...

そして第3部は「ヨーロッパ」。スイス、ルーマニア、フランス海外県です。

ここで面白かったのも、実は質疑応答でした。アフリカの大使の一人が、フランス大使館員に向かって尋ねたのです、「フランス」のアイデンティティーってなんやねん? と。

フランス大使館員は、フレドリーな人だったので、なんとかにこやかに切り抜けようとするのですが…… まあね、これは質問そのものが答えにくい上に、周りにいろんな国の大使館員がいるので、気楽には答えられなくて…… 結局「模索中」みたいな答えで終わってしまいました。

アイデンティティー。これはもう何度か書きましたが…… 宮内勝典さんがおっしゃっていた「アイデンティティーを求めることから、すべての争いが生まれるんだ」という言葉が、わたしは忘れられません。そう、そこに「国」がある限り、人類の平等は原理的に不可能なのですね。

……というわけで、「チョー勝手」な感想を書いてしまいました。でもやはり、意味のあるシンポジウムだったと思います。スタッフの皆様に感謝。(高瀬先生、知らせてくださってありがとうございました。とても分かりやすく、親しみのもてる司会ぶりで、感心しました!)

※会の様子はこちら;

http://ajeq.blog.so-net.ne.jp/