院生セレクションで、
『野火』(2014)
を見ました。
塚本晋也、監督・主演です。
大岡昇平原作、
舞台は第二次大戦中のレイテ島、
と聞いただけで、
ある程度の「悲惨さ」は予想できますが、
その「悲惨さ」は、
いくつかの点で「ありきたり」ではないものでした。
この映画を見た誰もが感じるはずなのは、
戦場、戦闘における描写の、
これでもかという苛烈さでしょう。
それはたしかに、この作品の個性の一つです。
ただ、他の戦争映画と比べて「違うな」と感じたのは、
主人公が孤独である点です。
彼は、内地では「物書き」であり、
すなわち部隊内では「インテリ」であり、
しかも肺病持ちであると。
つまり、戦場においては、
もっとも役に立たない者、なのです。
その彼が、一つの目となって、
戦場を見つめる。
兵士たちを、彼らが投げ込まれ、
逃げ出すことができない地獄を見つめる、
そしてその地獄は、
見つめる対象であるばかりでなく、
かれもまた生きねばならないものでもある、
そして彼自身も、
銃で、消せない傷を抱え込むことになる……
というわけです。
ここには、(アメリカ映画的な)仲間同士の連帯や友情はありません。
主人公が生きる孤独は、
飢えに囲まれた苛烈なもので、
その分、根源的だとも言えるのでしょう。
ラスト、
戦地から帰還した主人公が、
書き物机に座って仕事をしているシークエンスがあります。
そこにきれいな女性が、
盆に載せた食事を運んできます。
彼女が立ち去ると
(本当には立ち去っていないのですが)
彼は、観客に背中を向けたまま、
おそらくは食べ物に対して、
ナニカをしています。
声を上げながらするその行為は、
なんなのか分からないのです。
でもこれは、わからなくていいのだ、と感じました。
これは、
主人公が戦地から持ち帰り、
彼の内奥に黒くとぐろを巻くナニモノカなのでしょう。
その、映画的表現が、
この不明な所作なのだと感じました。
若い世代に、ぜひ見て欲しい作品でした。