『ル・フランセ・クレール』の収録は、とてもいい雰囲気でした。
聞けばタケちゃんは、レナさんがまだ高校生だった頃、
一緒に仕事をしたことがあり、
その後レナさんはフランスの大学校に行っていたので、
この時が数年ぶりの再会とのことでした。
もちろん、レナさんの帰国を、タケちゃんは知っていたわけです。
収録後、レナさんはわたしたちに言いました、
フランスでビジネスを勉強して、実際働いてもみたけれど、
わたしは日本でフランス語の先生になることにした、
ビジネスは好きだけど、フランス語教育のほうがもっと好き!
その後、タケちゃんとレナさんはたくさんの仕事を一緒にこなしたはずです。
そしてわたしにもまた、
タケちゃん&レナさんと仕事をする機会が巡ってきました。
『フラ語デート会話、恋ってどんなものかしら?』です。
これはようするに、恋する二人が、
東京のあちこちをフラ語デートする、というものです。
でその場所と言うのが……
その日、タケちゃんとわたしは新宿で待ち合わせしました。
そしてまず向かったのがHMVです。本の中の二人が、
HMV の視聴機の曲についてあれこれ言う場面があり、
そのCD 用の背景音を録音しに行ったのです。
もちろん、場所が場所だけに、録音終了後も、
いろんなコーナーに引っかかったのは言うまでもありません。
次に向かったのは、東口の吉野家です。
ここではどうしても、店員さんの、
「つゆだく一丁!」
を録音する必要がありました、本の会話に合わせて!
わたしたちは2階に上がり、
中国系と思われる女性の店員さんと少ししゃべりました。その結果、
「つゆだく」の上にもうひとつ、
「つゆだくだく」という選択肢があることを知りました。
じゃあ清岡さんつゆだくにしてください、
わたし、だくだくいってみますから。
そしてCD には、見事に、
「つゆだく一丁、つゆだくだく一丁!」
を収録することができました。
そしてわたしたちは電車に乗り、さて今度はTDL です。
これはまず、車内のアナウンスを録音しなければなりません。
「次は、舞浜~」です。
そしてさらに大事なのは、舞浜駅に流れる、ご存知あのメロディー。
TDL 入口付近のざわめきもまた。
なんだか、40男が二人してTDL の周辺をさまよっているのはミョーでしたが、
タケちゃんはどこでも溶け込める人ですし、
わたしもそんなタケちゃんと一緒なら、浮世離れも楽しいものです。
で、TDL 関連の収録も無事終わり、最後はまた新宿に戻り、
スタバの店内の録音です。これは、高島屋の前の、
うなぎの寝床様の店で敢行しました。
うまくいきました!
こうした背景音を駆使し、また、レナさんとアレックス君の協力を得て、
『デート会話』のCD は完成しました。
このことがなかったら、今わたしがレナさんとNHKで働くこともなかったでしょう。
2年前の4月、タケちゃんは、
「NHKテキスト、売り切れてたので注文しました!」
というメールをくれました。
たしかやっぱり『デート会話』時だったと思いますが、
最後のゲラ直しの時間がなくて、白水社から歩いて三秀社まで出かけ、
そこで「出張校正」した記憶があります。
そしてこの時も、
タケちゃんはまず担当オペレーターの女性を紹介してくれました。
(お名前も覚えています。)
よくわかりませんが、フツー編集者って、
オペレーター個人とまで仲良くなるものなんでしょうか?
校正は午後5時ごろ終わり、
そのまま近くの飲み屋に吸い込まれてしまったのは
また言うまでもありません。
そういえばこの時期、タケちゃんにはステキな彼女がいました。
花子さん(仮名)には何度も会い、あれはどの本の時だったか、
二人でわたしの家に来てもらって、
イラストのレイアウトを相談したこともあります。
ただこの時は、なぜかタケちゃんが早々に酔って寝てしまい、
ほとんどわたしと花子さんで決めてしまったのですが!
花子さんはいい人で、タケちゃんのことが好きでたまらない感じでした。
彼女にとってタケちゃんは、男であり、王子であり、妖精であり、スターでした。
だから、花子さんと別れたって聞いた時には、
わたし自身は、とても残念な気がしました。もちろん、
そうは言いませんでしたが。
その後タケちゃんは病を得ました。
繰り返しさまざまな治療を受けました。
それは辛いものだったはずです。
手術を受けに入院する数日前、レナさん、「ふらんす」担当のアミさん、わたし、
みんなで新宿のカラオケに行きましたね。
たくさん飲んで、そのあとうどんも食べて、
あの東南口の前で握手しましたね。
タケちゃんは死んでしまいました。
わたしたちは彼にお別れをしなければなりません。
もっとタケちゃんと仕事がしたかったのに。
進行中の本だって、ゲラが出る一歩手前だったのに……
Requiescat in Pace タケちゃん
わたしたちは気が合いましたね。
楽しい本が作りたかった、喜んでもらえる本が作りたかった。
あなたのおかげでたくさんの人と出会い、
あなたのおかげで仕事もできました。
あなたは白水社を愛していた。仕事を愛していた。
わたしたちは仕事仲間だった。そして親友だった。
タケちゃん、もっと一緒に仕事がしたかったのに。
Requiescat in Pace タケちゃん。