2018年2月23日金曜日

Much Loved

半分「賭け」で買ったDVDが、
期待を越えておもしろいということが、
最近増えた気がします。
今日見た

Much Loved (2015)

もそうでした。
これは、モロッコーフランス映画で、
タイトルは英語ですが、
セリフの95%はアラビア語、残りがフランス語です。
わたしはフランス語字幕版で見ました。

https://www.youtube.com/watch?v=JM1wixOJdzA

https://medias.myfrenchfilmfestival.com/medias/67/66/148035/presse/much-loved-プレスキット-フランス語.pdf

舞台はマラケシュです。
ヒロインは3人の娼婦たち。
リーダー格のノアは28歳。姉御肌です。
もう一人はスーカイア。
若くてきれいな彼女は、
ノアが「乞食」と呼ぶ、一文無しのカレシがいます。
3人目はランダ。
彼女はこの仕事が好きじゃないのですが、
それは彼女がレズビアンであることも関係しているのでしょう。
映画は、この3人と、
彼女らを仕事場まで乗せてゆく運転手、
もうかなり年のいったサイードが中心に回ります。

ノアは、とにかくお金のある男を探し、
サウジアラビア人のパーティーに行ったときなどは、
おそろしく積極的に彼らを挑発します。
実は彼女は、母親と妹・弟が暮らす実家に、
幼い息子を預けており、
彼らの全員の暮らしの面倒をみ、
家賃だって払っています。
にもかかわらず母親は、
娼婦になったノアに冷淡です。
ノアには、ヨーロッパ系の、
かなり年上のカレシ(カルロ・ブラント)もいますが、
彼にお金はありません。

スーカイアは、うまくサウジ人の男をつかまえます。
でも、彼は不能なのです。
2度目に会った時も、3度目も。
で、彼がベッドを離れたすきにPCを覗くと、
そこには男性のヌード写真が。
スーカイアは突如切れて、帰ると言い出します。
わたしにも自尊心があると。
男は怒って彼女を殴り……

ランダは、1つの夢を持っています。
それは、スペインに住む両親のもとで暮らすこと。
でも、IDカードを持っていない彼女は、
パスポートを取るとこすらできません。
それにそもそも、
そのスペイン云々の話も、
ほとんどフィクションにしか聞こえないし。

というわけで、
実はこの映画は、そんなにストーリーはないんです。
1つは、殴られたスーカイアが病院送りになり、
ノアがその復讐に行くと、
逆に自分が逮捕され、
刑事にわいろを要求されたりすること。
もう1つは、
物語りの後半、
妊娠して、田舎にいられなくなった女性が、
彼女らの仲間に加わること。
そしてみんなで、ヴァカンスに出かけること、です。
つまり、映画は、
こうしたストーリーよりも、
むしろそれが起こる「状況」を描こうとしているのです。
ノアたちが、仕事前、仕事後に走り抜ける、
マラケシュの街の風景。
この、前近代と現代がまじりあったような風景を、
ノアが、スーカイアが、見つめるのです。
近代的な合理性、みたいな場所からドロップアウトし、
でもサウジの金持ちと寝る彼女ら。
モロッコの人たちは、
この映画をどう見るのでしょう?
(実は、モロッコでは、上映禁止になったそうなんですが。)
そういえば、スーカイアが、
あからさまに反イスラエル的な発言をして、
女は政治に口を出すな、と、
サウジ人たちから怒鳴られるシーンもあります。

細かいところでおもしろかったのは、
まず、男がホモセクシャルだと知ったスーカイアが、
異様な勢いで怒り出す場面。
実は彼女が、ベッドの中で祈りをささげる場面があり、
つまり彼女は、
(「汚れて」はいるけど)敬虔な人間として描かれています。
で、イスラムでは、同性愛はタブーなんですね。
そして敬虔な娼婦であるスーカイアは、それに嫌悪した、というわけです。
ただ、これには対比があります。
ノアには、何人もの、
ゲイの同業者がおり、
ノアはみんなと仲良しです。
この辺の作りは、とてもうまいと思いました。
また、
ノアにわいろを要求する刑事ですが、
彼は取り調べ中、
ノアをレイプするのです。
(彼女は一声も漏らしません。)
でもその後、彼はノアを朝のカフェに連れ出し、
そこでわいろを要求するのですが、
それは同僚たちへの分で、
おれはもうもらった、早く食べろ……
と言うのです。
Mmmm、なかなか複雑です。

そう、この映画の一番の良さは、
人物たちのこうした複雑さにあるんでしょう。
そしてそれが、マラケシュの今と重なってゆく……

いい映画でした。