2024年3月6日水曜日

『人類の深奥に秘められた記憶 』

2021年のゴンクール賞を獲得した小説、

La plus secrète mémoire des hommes


を読んでみました。
日本語訳もしばしば参照しました。
それが、昨秋刊行された、

『人類の深奥に秘められた記憶』

です。
訳者は野崎歓さんですが、
いつもながら素晴らしい訳でした。
最後の解説も必要十分という感じで、完璧でした。
(解説に書かれていたことは、
わたしが感じたのとほぼ同じで、
何かちょっと安心しました。)

あらすじを書くのはなかなか至難なので、
Amazonの紹介文をコピペします;

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なぜ人間は、作家は、“書く”のか。
根源ともいえる欲望の迷宮を恐ろしいほどの気迫で綴る、衝撃の傑作小説!

セネガル出身、パリに暮らす駆け出しの作家ジェガーヌには、
気になる同郷の作家がいた。
1938年、デビュー作『人でなしの迷宮』でセンセーションを巻き起こし、
「黒いランボー」とまで呼ばれた作家T・C・エリマン。
しかしその直後、作品は回収騒ぎとなり、版元の出版社も廃業、
ほぼ忘れ去られた存在となっていた。
そんなある日『人でなしの迷宮』を奇跡的に手に入れ、
内容に感銘を受けたジェガーヌは、
エリマン自身について調べはじめる。
様々な人の口から導き出されるエリマンの姿とは。
時代の潮流に翻弄される黒人作家の懊悩、
そして作家にとって “書く”という宿命は一体何なのか。

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まあ、これもまたわかりやすいとは言えませんが。

わたしは一般に、
小説家の出てくる小説、
演出家の出てくる芝居、
映画監督が出てくる映画、
は面白くないと思っています。
どんな形にせよ、
(つまり素直であれ歪んだものであれ)
そこには自己愛が横溢しているのが常だからです。
で、
この小説もそれに該当するので、
どうかなあ、とやや不安な気持ちで読み始めたのでが、
これがなぜか読んでしまうんですね。
主人公は、確かに、いわば昔風の「文学青年」なんですが、
大きいのは、さまざまな相対化がなされている点でしょう。
このおかげで、自己愛ズブズブにはならず、
むしろ引っ張られるように読み進めていけます。

……というようなわけですが、
それにしても、
久しぶりに読んだ強烈な小説なのは間違いありません。
1990年生まれの若い作家が、
ここまでのものを書くということに、
驚きを禁じ得ません。

セネガル出身の、
超優秀なワカモノにとっての、
パリのポスト・コロニアルな状況。
これはまだ古い問題ではないのでしょう。
この辺りは、特に力がこもっていると感じました。

テクニックとして、
いったいこれは誰のモノローグなの?
と思うことが何度かありました。
つまり、
ある人の視点からの文章の中に、
それとは違う視点の文章が投げ込まれているのです。
これは、おもしろい手法だと思いました。
その匙加減も絶妙だし。
(つまり、迷うけど、分かるわけです。)

でも結局最後まで読まされてしまうのに、
最も力を発揮したのは、
彼の物語ることのうまさなのでしょう。
400年前の『ドン・キホーテ』もそうでしたが、
突如挿入される「物語」が、
それ自体魅力的なのです。

オススメします。