アモス・ギタイ監督の『撤退』、
見てみました。
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=ZQbt2F6BZdw
F2の紹介ニュース:https://www.youtube.com/watch?v=v3o_tZdG6ts
以前見た、ギタイ監督の『フリーゾーン』は、
イマイチぴんとこなかったのですが、
この『撤退』は、なかなかいいと思いました。
この映画、2005年の、ガザ地区からの、
ユダヤ人入植者の「撤退」を題材としています。
ちょっと調べたところ、
種子島ほどの面積のガザには、14万のパレスチナ人が住み、
ユダヤ人入植者は8000人しかいませんでした。
ということは、このまま入植を続けても、
人口比的にユダヤ人優勢になるのは困難。
で、イスラエル国家は、入植者たちに国に戻るよう
命じたわけです。
でも、
もう長くその土地にくらし、
あるいはそこで生まれ育った者たちは、
そう簡単に「自分の土地」を捨てられません。
で、イスラエル軍が投入され、
変な話ですが、イスラエル軍が、
イスラエル人を、
ガザ地区から強制的に連れて帰ったわけです。
この事情が、
映画の大きな背景です。
(ちなみに、この入植について、
おもしろい記事がありました。
たしかに、「成功」している人たちは、
入植なんてしませんね。
で、儲かるのは……
http://www.diplo.jp/articles06/0608.html)
物語のほうはというと、
これは監督も言うとおり、
相当にメロドラマ。
正直言って、
かなり無理をしてガザの状況にはめ込んだ物語です。
フランスのアヴィニヨンで、
ある国際法を教えていた元教授が死にます。
子供は二人。
離婚しそうな娘アンナ(ビノシュ)と、
イスラエル軍に属している養子の息子ウリです。
(ウリの母親と教授は結婚して、
連れ子であるウリを養子にした。)
葬儀で、二人は久々の再会。
でも遺言によると、
アンナが数十年前に捨てた娘ダナが、
ガザ入植地に住んでいて、
実は教授は、アンナに知らせることなく、
ほぼ毎年ダナに会いに行っていたのでした。
で、アンナは、ダナに接触して、
遺産を渡さねばならない……
フランスにいるときのアンナは、
なんというか、退屈したブルジョワの風情。
それが、
ガザの現状を見るにつけ、
表情が変わってゆきます。
ガザ入植地(キブツなのか、キブツ的なだけなのか)
の描写は、とても新鮮。
(どこまで事実なのか、わかりませんが。)
だから全体としては、
間違いなく興味深い映画でした。
弱点は、やはり物語。
まず、アンナがダナを「捨てた」経緯が、
ほとんど不明。
弁護士(ジャンヌ・モロー)の言葉から推し量るに、
どうもアンナは、かつてキブツにいて、
そこで頼る人もなくお金もなく、
ダナをおいてきてしまった……という風に受け取れますが、
あいまいです。
また、この母子は再会するのですが、
そのときの二人の反応も、
いい場面なんですが、
ほんとに? という感じも残ります。
これは、ラストのアンナの様子についても同じ。
さらには、ダナやウリはもちろん、
アンナもその父もユダヤ人だと思うのだけれど、
そのへんも少しあいまい。
(アンナは、父が話せたヘブライ語が話せないので、
彼女だけは違うのかも。
ウリは、フランス語を話したがりません。)
つまり、
おもしろいしいい映画だと思うけれど、
わたしには弱点と感じられる部分もはっきりあった、
というところでしょうか。
そういえば、
冒頭の数分だけ、
ウリが、
行きずりの女性(ヒアム・アッバス)と会話する場面があります。
このシークエンスは、とってもよかったです。
ヒアム、さすが。