2018年6月9日土曜日

ファティ・アキン/4

今回は、
ファティ・アキン監督の3部作の第1弾、

『愛より強く』(2004)

を見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=OoEskub6VdY

この映画の英語(&フランス語)のタイトルは、
Head-on(「真正面から」)
なんですが、ドイツ語では、
Gegen die Wand(壁に向かって)
です。

ハンブルクに住む、
トルコ系ドイツ人の中年男、ジャイト。
妻を亡くし、完全に方向を失った彼は、
破滅的で自棄的な生活の中で、
ついに自殺を敢行する
(猛スピードのクルマを、「壁に向かって」激突させたのです。)
のですが、結局病院で目を覚まします。
そしてその病院で、
彼は唐突に、結婚を申し込まれるのです。
やはりトルコ系であるシベルは、
家族が生きる因習的な世界に耐えられず、
手首を切ったのですが、
彼女もまた死にきれず病院に運ばれ、
そこで、ジャイトを見かけ、
偽装結婚を申し込んだのでした。
トルコ系の男なら、家族も認めるだろし、
とにかくシベルは、家族から遠ざかり、
「自由」に生きたかった……
偽装結婚は成立し、
シベルは「自由」を謳歌し始めます。
酒、麻薬、男……
けれど次第に、この偽装されたカップルの奥底に、
ある「感情」が動き出すのです……

ジャイトを演じたビロル・ユーネルは、
なかなかいい。
友人の女性(フランス語教員)は、
この「むさくるしい男」が大好きだと言ってましたが、
なるほど魅力があります。
もちろん、破滅型特有の、
タナトス的な魅力ですが。

ドイツ語タイトルの中の「壁」は、
クルマが激突する「壁」であり、
同時に社会的な、
あるいはもっと根源的に人間存在に関わる、
「壁」なのでしょう。
そして後者だと解すれば、
この「壁」を乗り越えようという意志こそが、
「愛」だということもできるのでしょう。