2018年9月5日水曜日

Agathe Cléry

もう20年前に見た作品なので、
ほとんど記憶にないんですが、
かつて『人生は長く静かな河』という映画がありました。
で、
その監督であるエティエンヌ・シャティリエの、
2008年の作品、

Agathe Cléry

を見てみました。
これ、もっと早く見るべきでした。
ミュージカル的歌や踊りも登場するコメディーで、
おもしろかったです。

https://www.youtube.com/watch?v=_85JoH0sAM0

タイトル・ロールであるアガトは、
白人ばかりの化粧品会社でマーケティングの責任者です。
今一番のオシは、美白化粧品。
そんな彼女が、
珍しい(実在する)病気になり、
その結果、
なんと肌が黒くなってしまうのです。
人種差別主義者である彼女にとって、
これは一大事。
深い「絶望」の中で、
会社は解雇され、夫は逃げ出し、
白人専用のアパルトからも追い出されます。
で、
職探しも難航しますが、
ついに彼女は「黒人」として生きることを受け入れます。で、
その結果雇ってくれたのは、
白人は雇わない、というポリシーの会社でした。
しかも、その黒人社長と、
お互いひとめぼれ。
アガトの新たな人生が始まります。
が、やっと掴んだ幸せの真っただ中で、
なんと彼女の病気が治ってしまいます。
彼女はもう戻りたくありませんが、
それでもやっぱり、白人に戻るのです……

もちろん、荒唐無稽な話です。
でも、ちょいちょい挟まる歌や踊りも皮肉が効いているし、
セリフもおもしろいと思いました。

https://www.youtube.com/watch?v=FyG8GDrKe1E

(彼女は、黒人もアラブもアジア人も好きじゃない、
でも、それを除けば、差別主義者ってわけじゃない!
と歌っています。)

ただこの映画、
メディアの評判は全然よくありません。
フランスのメディアは、
こういう人種差別を扱うコメディーはお嫌いなようです。
典型的なのは、(映画が)気づまりだ、
というものですが、
それはむしろ、このフランスの差別的状況と向き合うのが気づまりだ、
ということのようにも聞こえます。
オチが見えてる、という評も多いですが、
そんなことは当たり前です。
見る前から分かります。
ただそれは、映画の評価と直結しないでしょう。

この映画と近いテーマの作品はいくつか思い浮かびます。
Les Keufs (1978)
『ロミュアルドとジュリエット』(1987)
『カフェオレ』(1993)
などです。
もちろん、いろいろ違いもあるわけですが。

ただわたしは、
人種差別を描きながら、
白人も黒人も同様に排外的な会社を経営しているという設定から、
そしてまた、
セリフの中に、

Le métissage, c'est l'avenir de l'humanité.
(混血は、人類の未来だ)

という一節があることから、
深いところでは、
『戦争より愛のカンケイ』と共通するものがあると思いました。