2011年4月20日水曜日

La graine et le mulet


今回見たのは、2時間30分を超える長めの映画、
La graine et le mulet
です。
2008年に、セザール賞「作品賞」、「監督賞」などを、受賞しています。
結論:いい映画でした。

タイトルは、直訳すれば『種子と(魚の)ボラ』となりますが、
これは、「ボラを使ったクスクス」を指しているようです。
南仏の港町セットを舞台とした、チュニジア出身の2つの家族の物語です。

家族Aは大家族で、すでに独立している5人の子供たちがいます。
彼らの中には、結婚して子供を持つものもいます。
家族Bは、母と娘のリムだけ。
ただし母は、小さくて古いながらも、ホテルを経営しています。
そして主人公スリマンは、61歳の港湾労働者で、家族Aの主でした。
でも今は離婚して、家族Bと共に、ホテルの一室で暮らしています。
物語は、彼が35年働いた現場を、冷たく解雇されたところから始まります;

http://www.youtube.com/watch?v=IJiP3pBNCn8&feature=related

スリマンは、一大決心をします、
退職金を使って古い船を改装し、そこでクスクスのレストランを始めよう、
というわけです。
ここで1番親身になって、本気で手伝ってくれるのは、
家族Bの娘リム(Hafsia Herzi)です。
彼女は、以前ここで紹介したイラクを舞台にした映画で、
ヒアム・アッバスの義理の娘を演じて印象的だった女優です。

http://tomo-524.blogspot.com/2011/01/laube-du-monde.html

彼女はこの『種子とボラ』で、セザール賞の「新人賞」を得ています。
実際、圧倒的な存在感があります、若いのに!


監督のチュニジア系フランス人、
アブドゥラティフ・ケシシュAbdellatif Kechiche(1960~)は、
インタビューで言っています、

わたしが描きたかったのは、労働者階級なんだ、
わたしが属しており、よく知っている労働者たちの生活。
描かれている家族は、いわばわたしの家族であり、
スリマンはわたしの父だ。
彼は、本人が意識しないうちに、自分を犠牲にしてしまう……

映画の中で、スリマンはレストランの開業を試みるわけですが、
それは自分のためではありません。
家族の、子供たちのためです。

……こう書いてくると、なにか「ヒューマン」な映画に聞こえるかもしれません。
そう、たしかにすごく「ヒューマン」です。
ただこの監督の人物描写は巧みで、
強さと弱さ、情愛と酷薄、頑迷さと慈悲、意志と惰弱、など、
一見相反する要素を、おそらくは計算して、
1人の人物の中に注ぎ込んでいます。
それが、この映画を落ち着いた、地に足のついた作品にしているのでしょう。

国際的にもとても評判の高かった作品ですが、
なるほどいい映画でした。