2015年9月16日水曜日

『東京自叙伝』


去年の暮れ、
年末恒例の「今年の〇冊」的な特集で、
これでもかというくらい名前の挙がっていたこの本、
『東京自叙伝』、
遅ればせながら読んでみました。

この作家の作品は、
垂直に(自己省察的に)入り込む瞬間ももちろんあるのですが、
横に(語り的に)どんどん滑ってゆく、
そのスピードと雪崩感が快感です。
今、ネットで読める書評をいくつか見たのですが、いわく、
近代日本の「歴史」の仮構性を逆手に取り……
というのはもちろんその通りだと思いますが、
タイトルを見れば一目瞭然、
これはやはり、何をおいても、東京の物語です。

たとえばパリのことをアアでもないコウでもないと調べていて、
ふと、
それにしても、「パリ」は、
時間の中にしかないのだなあ、と思うことがありますが、
この小説は、
そうした感じと通じ合うところがあるように思いました。
また、これは『東京詩』でも触れたのですが、
詩的な想像力が都市と向き合うとき、
そこでは(どうもほとんど必然的に)
太古の記憶が呼び出されるように思います。
この小説も、そうした想像力が根底にあると感じました。

小説というメディアでしか達成できない絢爛たる世界。
評判通りの傑作でした。