2017年1月6日金曜日

Mon fils

昨日に続いて、エラン・リクリス監督の最新作、

Mon fils(2014)

を見てみました。

始まりの舞台は、テルアヴィヴ近郊のティーラ。
そしてエルサレムへと移ってゆきます。
時代は、まず、1982年。
(映画の冒頭、ラジオから、
イスラエルが南レバノンを占領した、という放送も流れます。
シャロンが国防大臣だった1982年の事件です。
つまり、昨日見たZaytoun と同じ時代です。
主人公の家には、
「ベギン、シャロン、戦争は止めろ」
と書かれたプラカードがあります。)
そしてその後時代は6年後、1988年に飛び、
その後、湾岸戦争の91年などを経過し、92年までが描かれます。

https://www.youtube.com/watch?v=vPDKh-b3xPE

100分の作品なんですが、
ずっしり内容が詰まっています。
複数のストーリーラインが並行し、
主人公はそのすべてに関係しますが、
すべてが一点に収斂する、というのではなく、
ずっと並行してゆく感じです。

イアドは、イスラエル内で暮らすパレスチナ家庭の三男。
とても優秀で、イスラエルの最難関高校に入学を許可されます。
(開校以来初のアラブ系の生徒です。)
彼はそこで、快活で美しい少女ナオミと出会い、恋に落ちます。
(「ナオミ」というのは、
ユダヤ系の代表的なファーストネームの1つです。)
またイアドは、学校のボランティア活動を通して、
筋ジストロフィーのユダヤ人少年、ヨナタンとも出会い、
二人の間には、深い友情が生まれます。
家族の期待を背負ったイアドは、勉強も怠らず、
すべては順調に見えました。
でも、ナオミが、イアドとの付き合いを親に禁じられたあたりから、
だんだん歯車が狂い始め……

イスラエル人はユダヤ人、と思いがちですが、
イスラエル人の20%はアラブ系です。
ただ彼らは、社会的に下層に押し込められがちで、
その意味でイアドは、家族の期待の星でした。
実は彼の父親(アリ・スリマン)も優秀だったのですが、
反政府運動にかかわったため2年間投獄され、
将来を断たれました。
ただ、時代は変わり、
父親もまた、今はもうイスラエルの絶滅を望みはせず、
アラブ系にも平等な機会が与えられることを望んでいるようです。

映画の中には、
イスラエル人がアラブ系をいじめる場面も、
そしてその逆のケースも、きっちり描かれています。
だからこそ、イアドとナオミの恋は美しく見えます。
イアドとヨナタンの友情も。

そして映画は、思いもよらない結末を迎えます。
エラン・リクリス監督らしいオープン・エンドです。
それにしても、
こんなに濃い映画は久しぶりに見ました。
いい映画でした。

*イアドの中学の校長が、
『シリアの花嫁』でシリアの兵士を演じていたNorman Issaでした。