福岡ハカセ本、これで6 冊目となるのは、『もう牛を食べても安心か』(文春新書)です。
福岡本はいつもそうなのですが、そしてそこが魅力なのですが、本の内容は、単に「もう牛を食べても安心か」どうかということに収斂するというよりも、それを考えるスリリングな過程に重点が置かれています。もちろん今回もそう。正直言って、このタイトルだけでは手に取らなかったと思いますが、そこは福岡本、やはりおもしろいんですね。
たとえば、なぜ狂牛病が消化機構をすり抜けたか、つまり、どうやったら消化されずに消化管から体内に入り、リンパ節に滞在し、やがては脳にまで侵入できたのか、というテーマについて語る場面では、牛の赤ちゃんの免疫システムについて書かれています。(もちろん人間の場合も。)それによると……
「すべての生物には、その発達プロセスにおいて、「脆弱性の窓」があると考えられている。臓器や組織における細胞分化や発達の途上、あるいは神経系や免疫系などのシステムの構築途上にあるとき、特に環境からのストレスや侵襲、干渉をことさらうけやすい、ある特別なクリティカル・ピリオド(=決定的な期間)が生物にはある……」(p.118)
牛の赤ちゃんは、初乳に含まれる高濃度の抗体を効果的に受け取るため、消化管のタンパク質分解酵素のレベルを下げ、さらに、消化管壁にある細胞間隙のバリアーを部分的に開いて、抗体を急速に体内(血液内)に取り込めるようにしているのだそうです。(なんだか、美しいですね!)
ところが、かつてイギリスでは、こうした牛の赤ちゃんたちから母乳を奪い、しかも、水で溶いた肉骨粉を飲ませていたのです。そしてもし、そこに狂牛病(をもたらすモノ)が含まれていたら…… そのモノにとって、子牛たちの体内に侵入するのは、とてもたやすいことだった……
基本的には、人間の赤ちゃんも同じ。赤ちゃんの免疫力が高まり、腸内細菌が増えるまで、やっぱり母乳がいいようです。はやい乳離れは、危険かも……
ほんとにすごいですね、生物というシステムって! (そしてそのシステムは、もちろん、動的平衡そのものなのですね。)