2016年7月30日土曜日

Papa Was Not a Rolling Stone


2014年に公開された、
シルヴィー・オアイヨン(Sylvie Ohayon)監督の、

Papa Was Not a Rolling Stone

を見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=EjUt6acK4Qc

タイトルはもちろん、
テーンプテーションズのヒット曲、
Papa Was a Rolling Stone
から来てきます。

https://www.youtube.com/watch?v=HcSDqZVKJDU

で実際、劇中でこの曲がかかります。

さて物語ですが、
舞台は、1980年代のラ・クルヌーヴ。
パリの北東郊外です。
そしてそこには、"4000"と呼ばれる有名なシテ(団地群)があるのですが、
その住民は、映画内では
「ピエ・ノワール、アラブ人、ユダヤ人、イタリア人、ポルトガル人……」
だと紹介されますが、
その時画面に映っているのは黒人です。
この映画の登場人物たちは、みなそこに住んでいます。

ステファニーとファティマは、二人とも高校3年の親友同士。
ステフの母はユダヤ人(オール・アティカです。リアルなユダヤ人女優ですね)。
もちろん母方の親戚もみんなそうです。
父はカビール(ベルベル人)だということですが、
すぐに亡くなってしまうので、ほとんど出てきません。
つまりステフは、
アラブ系(アルジェリア系・ベルベル系)&ユダヤ系のフランス人、ですね。
また、ステフが6歳の時に来た継父は、
なにかという小さな娘をたたく、まったくダメなやつです。
フィフィは言うまでもなくアラブ系で、
ちょっとふくよかなんですが、
誰かにその点をいじられると、すごい勢いで言い返します。

(ある時、ユダヤ人の同級生に「デブ」と呼ばれ、
「メガネ野郎! あんたなんか、ナナ・ムスクリーニのくせに!」
と言い返すと、そこからつかみ合いの喧嘩になり、
ついに彼女は、
Sale juif !(汚いユダヤ人!)
と言い放つのですが、
それまで「まあまあ」という感じで二人を押させていた友達たちが、
その瞬間、
フィフィ、それはだめ、謝りなよ、
というあたり、よかったです。
ちなみにステフの継父は、
時に彼女に対し、
Sale bougnole de youpine !
と、かなりひどい差別的な罵りを吐きます。
訳は控えますが、アラブ人とユダヤ人を同時に侮辱しています。)

ステフは、勉強もできるし、
ダンスも才能に恵まれ、
このどちらかを生かして、
なんとかこの4000を
(というか、怠け者の母と暴力的な継父のもとを)
離れたいと思っています。
つまり、ペリフの向こう、「パリ」に行き、
パリ大学に行きたいのです。
でもそれを知ったフィフィは、とても怒ります。
ここが嫌なの? 私じゃいやなの?
というわけです。
フィフィは、ここで、「ふつう」に結婚して、子供を育てることを望んでいます。
「パリ」は、彼女にとって遠いです。

(フィフィは言います、
「パリにいるのはおかしな奴よ、へんな名前(プレノン)の。
冷酷な奴と、死にぞこないなの。
それにどこも車だらけ。
こことは違うから、ベンチで落ち着いておしゃべりなんてできっこないの。
危険なの、パリは」と。
これは面白いですね。
ほとんどの場合、「パリ」から、
(あるいは日本からでも、「パリ」というメガネを通して、
「郊外は危険だ」
というのが決まり文句ですから。)

ステフは、アラブ系のラバと恋に落ち、
実は妊娠してしまいます。
彼女にとっては、中絶しかないのですが、
そのお金がなくて途方に暮れていると、
いつもはダメダメな母親が、お金を用意してくれます。
「わたしが助けなかったら、だれが助けるの?」
という母親。これはいいことをしました。

結局ステフは、パリ大学に入学を許可され、
4000を離れることに。
その出発の場面、
恋人ラバの太っちょの父親も現れ、
「いい成績を取れよ。
おまえが立候補したら、
おれはお前に入れるからな。
(あんた、フランス人じゃないだろ?)
いや、フランス人さ。セ・フラン(céfran)じゃないぞ、
(れっきとした)フランス人(フランセ)さ。
なにしろ、ちょっとは豚肉だって食べるしな……
いや、ほんのちょっとだよ」
アラブのおじさんのセリフとしては、
ユーモラスで、いい感じですね。

そしてほんとの最後、
もう、ラバにとっては、もう手の届かない世界に旅立つステフに、
彼は言うのです、
「今度お前が話題になるのを聞くのは、テレビを通してだぞ、OK ?
それか、新聞か、OK ?」
ワルですが、気持ちのやさしい男の子です。

というわけなんですが、
この作品の監督の経歴を見ると、
ほとんどステフそのままなんです。
これは、自伝だったのですね。
(自分の書いた同名小説の映画化です。)
だから、80年代にする必要もあったのでしょう。
そしてステフ役のドニア・アシュール。
彼女も、父親はチュニジア系、母親はロシア系で、
彼女自身はフランス人。
そして最近では、監督業もしているようです、若いのに!

http://www.lemonde.fr/afrique/article/2015/06/19/doria-achour-un-travelling-entre-paris-et-tunis_4658141_3212.html

実を言えば、
一つの作品として見た場合、
いくつか弱いところがあると感じます。
ただ、エピソードの一つ一つが魅力的なので、
それは◎だと思いました。
「パリ」に行きたいアラブ系&ユダヤ系のステフと、
4000にとどまりたいアラブ系のフィフィ。
そこを、もっと前に出すと、
(少なくともわたしには)もっと立ち上がってくると思いました。