ケシシュ監督のVénus noire(『黒いヴィーナス』)は、
もちろんその存在は気になっていたものの、
舞台が19世紀前半だということもあり、
なかなか手が伸びずにいました。
ただ、先週のイベントに関連して、
ここで見ないといつ見る!
と思って、見てみました。
YouTube に、フランス語字幕の完全版がありました。
(画像は、DVDよりかなり荒いですが。)
https://www.youtube.com/watch?v=3rKZ9rhnylY
この映画は、サラ・バートマンという女性の、
後半生を描いています。
南ア出身で黒人(ホッテントット←これは蔑称)である彼女は、
「このままここにいても、一生メイドとして過ごすだけ。
一緒にイギリスに行って、一稼ぎして、
そのあとまたここに戻り、
優雅に暮らせばいいじゃないか」
という白人の口車に乗り、イギリスに渡ります。
けれど、待っていたのは……
彼女は、見世物小屋で檻に入れられ、人間と獣の中間的存在として、
劣った種として、
縁日の呼び物となります。
もちろんそれは、
彼女が期待していた仕事とは程遠く、
彼女の自尊心は踏みにじられます。
そして客足が遠のくと、
今度はフランス人とともにパリに渡り、
そこでもまた、さらにエスカレートした役割を演じさせられます。
そして……やがて興行主から見捨てられたサラは娼婦となり、
そこで病気を発症し、
売春宿さえ追われ、街角に立つことに。
さらに、死に絶えた彼女の体は、
解剖のサンプルとして、
高値で売り飛ばされてしまいます。
(そして標本となった彼女の肉体の断片は、
なんと、1974年まで、
パリのMusée de l'Homme に展示されていました。
でも、その後南アが返還を要求し、
2002年、サラは生まれ故郷の大地に戻ることができました。)
いい映画だと思います。
この作品を見たので、
これで(やっと)ケシシュ作品は全部見たことになりますが、
このVénus noire がそのリストにあるのとないのとでは、
全体の印象に大きな違いがあると感じました。
日本では、『アデル』の監督として知られているわけですが、
あの『身をかわして』だけでなく、
こんなフィルムも撮っているんですね。
植民地と宗主国の関係、
その間に生まれる(アンビヴァレントな)視線。
サラの肉体は、その視線そのものを体現しているようです。