2021年7月25日日曜日

『熱狂はエル・パオに達す』

ジェラール・フィリップの遺作にして、
ルイス・ブニュエル監督作でもある

『熱狂はエル・パオに達す』(1959)

を見ました。
数十年ぶりです。


もう、内容はほとんど覚えてなくて、
ジェラール・フィリップのことも、
彼の愛人役であるマリア・フェリックスのことも、
ああこんな感じだったっけ? 
くらいしか思い出せませんでした。
ただし白黒の画面の「雰囲気」は、
まさに、メキシコ時代のブニュエル、のそれです。

アメリカから飛行機で2時間という、
中南米の小さな島。
首都はエル・パオ。
独裁政権下で、総督が島のボスです。
で、総督の秘書官バスケス(ジェラール・フィリップ)は、
総督の妻イネスに恋心を抱いています。
独裁に抗議する自由主義者の凶弾が、
演説中の総督を殺害すると、
バスケスとイネスは急速に接近します。が、
新たに着任した総督は、
イネスにを「手に入れる」ことに執着し、
偽の犯罪でバスケスを投獄するのを止める見返りに、
自分にも愛を分けろとイネスを脅迫します……

ここでジェラール・フィリップは、
いつも通りカッコいいのですが、
彼が演じるバスケスが生きようとしている理想主義は、
結果的に、
あの人を殺し、この人も殺し、
またその人まで殺してしまう結果をもたらします。
そしてその理想主義自体も破滅に向かうところで、
映画は終わるのです。
つまりこれは、
理想主義、ないし正義が、
思わぬ形で人を殺し、
自らもまた自壊してゆくという、
反「正義」の物語だと言えるのでしょう。
もちろん、「国家」に対しては、
とてもシニカルに見えます。

以前見たときよりも、
ずっといい印象でした。
ブニュエル、さすがです。