東京といっても、かなり奥まったこのあたりには、まだまだ緑、しかも人工的ではない緑が残っています。そして5月も終わり近いこの時期になると、緑は一段深さを増し、なんというか、いわば「沈黙」のようなものを、胸のうちに湛え始めるようにも見えます。
この時期、そう、去年のこの時期も、一昨年のこの時期も、そしておそらく来年のこの時期も、やっぱり緑は深くなり、繰り返される自然の法則が実感されるでしょう……か? それは本当に、繰り返し? 宇宙の歴史は、1回きりだったはずじゃ?
たとえば、去年の緑色と今年の緑色、「完全に」同じはずはない、ですよね、リクツの上では? で、先日あるお酒の席で、理工学部の数学科の先生と雑談中、ふとこの話題を振ってみました。すべて1回きりなら、「法則」って言えるんでしょうか? 先生は余裕の笑みを浮かべて答えてくれました、それはほら、区切られた時間内で繰り返す、ってことね。ああ、そうなんですか……
そういえば、大革命の頃のフランスの数学者に、ラプラス(Pierre-Simon Laplace・画像)がいます。彼によれば…… 昔々あるところに、悪魔がいました。悪魔は、ある瞬間の、すべての物質の動きを認識することができました。そして彼は、その瞬間から1時間後の、すべての物質の動きを言い当てることができました。1年後の、100年後の、1000年後のすべての動きが…… これが有名な「ラプラスの悪魔」です。この悪魔なら、まさに完璧な気象予報士になれます!
でもこの悪魔は、どうやら存在しえない、ということのようです。なんでも、原子の位置と運動量を同時に知ることは不可能だ、ということが証明されているらしいのです。(このあたり、「ようです」や「らしい」が連発されていることに、注意してください!)
でも、完璧な気象予報士って、ちょっと見てみたい気もします。スーツを着た悪魔、なんでしょうか?