今週の「<東京>詩」ゼミでは、朔太郎とともに、その「モトネタ」ともいえるボードレールに登場してもらいました。2人を結ぶキーワードは、「群集」。単なる雑踏ではありません。「群集」というもの自体に、そこに飛び込んで泳ぐことに新しい価値を見出した、と言っていいのでしょう。
ところでボードレールは、詩「群集」の中で、bain de multitude 「群集という風呂」に入る、という言い方をしています。そう、たしかに大きな波のような群集のただ中にいるときは、そこに「浸っている」感じはありますよね? そんな感じなのでしょう。
そういえば、bain de soleil 「太陽の風呂」というと、これは「日光浴」のこと。よく見れば、日本語にも「浴」の文字が。フランス語も日本語も、日の光、熱、暑さなどを、ひっくるめて「水」関連の語彙で表現していることになります。おもしろいです。
bain de nuit 「夜の風呂」。これは偶然、月曜日のレナさんたちとの雑談で出てきた言い回しなんですが、なにを指してると思いますか? 比喩は比喩ですが、ぜんぜんひねってません…… 実はこれは、夜の海に裸で入ること、くらいの意味だそうです。え? 夜の海、こわいですか? わたしもです! あんな暗い水に、裸で入るなんて!(でもちょっとスリリングかも。)
日本人は、風呂好きだって言われます。たしかに、気持ちいいものですね、温かいお湯に体を浸すのは。で、ああいう気持ちよさって、日本語でなんて言うんでしょう?
なぜこんなことを言うかといえば、フランス語にはvolupté (ヴォリュプテ)という単語があり、「ああいう気持ちよさ」を表しているらしいからです。(この単語を辞書で引くと、「感覚的悦楽(!)」とありました。)
そうそう、フランス語には、bain-marie 「湯煎鍋」 という単語もあります。このmarie というのは、「小学館ロベール」によれば、伝説上の錬金術師、Marie-la-Juive の名前からきているそうです。まあたしかに、湯煎はどこか錬金術的な気もしますけど…… このへんの事情は、『バン・マリーへの手紙』(堀江敏幸)にも登場します。堀江さんの名文で、続きをどうぞ!