2022年2月19日土曜日

『アポカリプス・ベイビー』

ヴィルジニー・デパントの、2010年の小説、

『アポカリプス・ベイビー』(早川書房)

を読んでみました。
シスターフッド小説を読みたかったからです。
(レティシア・コロンバニの作品でお馴染みの、
斉藤可津子訳です。)

この小説のストーリーはシンプルです。
パリの、そこそこ知られた白人男性小説家の娘が、
ある日失踪。
そこで家族が、探偵を雇って探させる、というものです。
ただ、このストーリーには、
とくに変化も、
いわゆる「深まりゆく謎」もありません。
では読みどころは何かといえば、それは、
捜査の過程で登場する、
さまざまな階層のさまざまな人たちの、生活と意見、
これに尽きるでしょう。
経済資本がある層もない層も、
右も左も、
ヨーロッパ系もアラブ系も、
ネオリベも反グローバリズム主義者も、
ホモセクシャルもヘテロも、
ワカモノも老人も。
そして彼らのほとんどが、
社会に対して、あるいは彼らが置かれた状況に対して、
きつい毒を吐きます。
わたしたちは日本でそれを読み、
ああ、こういう屈折、こういう怨嗟がありえるのね~、
という発見があります。
こうした箇所は、たしかにおもしろいし、
フランスに興味があるなら、
読む価値はあると思います。

ただし、小説としてどうかとなると、
ちょっと微妙な気もします。
とても饒舌なんですが、
それが、ただ横滑りして、
深まらない部分も見受けられます。
また、一人称がさまざまに換わるのですが、
となるとやはり、そこに「作家の手」が見える時もあります。
もう一つ、実質の主人公である二人の女性が、
あくまでわたしにはですが、残念ながら、
それほど魅力的に感じられないのです。
ステレオタイプというか、
やはり作家の作り物っぽいというか。

でもたしかにこれは、
シスターフッド小説ではあるのでしょう。
それが読みたかったわたしとしては、
満足しています。