2021年4月29日木曜日

『イージー・マネー』


ネトフリにあったスウェーデン・ドラマ、

『イージー・マネー』(全6話)

を見てみました。
かつて、同タイトルの映画(3部作)がありましたが、
(それには原作小説があったのですが)
そのリメイク的な位置づけと考えていいのでしょう。
ただ、物語はずいぶん変更されていますが。


現代のストックホルム。
「スラム」と呼ばれる郊外の団地に暮らすアラブ系のレヤは、
幼いサムを育てるシングル・マザー。
度胸も才能もある彼女は、
自分の会社を立ち上げており、
有力な出資者を探し回っています。
同じ「スラム」には、レヤの亡夫の弟、ラヴィも住んでいます。
アフリカ系の彼は、地元の麻薬ディーラーのボスです。
そしてラヴィの手下の一人であるサリム。
シリアから来たという彼は、やがて、
レヤと恋に落ち、犯罪稼業から足を洗うことを考え始めます。
物語は、彼らに加え、
レヤの出資者となる新自由主義的拝金主義者、
ラヴィの組織の「パシリ」となる白人少年、
ラヴィと敵対する組織を率いる(ポーランド系?の)ダニ、
などが絡んで進んでゆきます。

で、その物語そのものは、
それなりにうまく作られていると思いますが、
中盤の息苦しさが強すぎて、
それはわたしからすると、
かなり大きな減点でした。
映画ではなく時間の長いドラマなので、
もっとなにか、
ウォームなサブストーリーが欲しかったです。

主演の Evin Ahmad、
スウェーデン人である彼女のことを調べてみると、
母親はイラク系、
父親はシリア系で、
すでに多くのテレビドラマ出演歴もある俳優でした。
またラヴィを演じた Dada Fungula Bozela は、
コンゴ・キンシャサ生まれで、
子どもの頃に一家でスウェーデンに移住したようです。
サリム役の俳優は、
両親や子供時代については口を閉ざしている、
という記事がありました。
サリムの仲間のアリは、
物語の中ではクルド人でした。

組織を抜けたいとボスに頼む時、
サリムはこう言うのです、
「ほかにも移民はたくさんいるだろう」と。
ということは、
サリムにとって、この麻薬組織は、
あくまで「移民」によって構成されているものなのです。
(だからこそ、白人のティムは重宝されたわけです。)
また、
レヤを含めほとんどの人物たちが、
ストックホルムの「スラム」に暮らしています。
が、レヤだけは、物語の中盤から、
出資者から提供を受け、
広くておしゃれな新築マンションに引っ越します。
つまり、
このドラマでも、
民族性と空間性は対応していて、
レヤはその「輪」を出て行こうとするわけです。
ただ、彼女は、
そこから完全に抜けることはできません。
その理由は、
さまざまなレベルでいくつも見つかりますが、
彼女もまた移民系であることは、
やはり無視できないのでしょう。

原作小説は 2006年の出版だと言いますから、
もう15年も前です。
そこでは、1990年代に増えたという、
ユーゴ系の移民が多く登場しているようです。
そして今、移民の民族構成は変化しました。
でも、彼らの置かれた社会的位置は、
それほど変わっていないのかもしれません。
このドラマが、2020年に再び撮られた由縁なのでしょう。