2021年4月7日水曜日

『ハイエナ』


韓国ドラマ、

『ハイエナ』

見終わりました。


『シグナル』の女性刑事を演じたキム・ヘス、
彼女の別の顔が見たくて選んだドラマでしたが、
これはまさに「画期的」で、
わたしが見た韓国ドラマの中では、
1,2を争う作品でした。

物語の構図はシンプルで、
地べたを這いつくばって生きてきたチョン・グムジャ(キム・ヘス)と、
最高裁長官を祖父(と父)に持つ一家の息子として、
エリート街道を驀進してきたユン・ヒジェ、
この二人が、騙したり、脅したり、対立したり、
激しく対立したり、やがて…… という物語です。

スペクタクルとしてのおもしろさは、
チョン・グムジャの行動力と、
歯に衣着せぬセリフ回しにあるのでしょう。
また、物語の作りとしてもそつがない
(=ツッコミどころが少ない)し、
脇役たちも粒がそろっていて、
それなりに魅力があります。

『ドクター異邦人』が、実質エリートたちの物語だったように、
この『ハイエナ』もまた、法曹界が舞台であり、
やはりエリートたちがほとんどわけですが、
その中心にいるチョンが、
「下品で金に汚い」ことになっているので、
別世界という感じはしません。
また後半、財閥を遇する相続税改正法案に対しての態度から、
彼女の庶民寄りの立場がより明確になります。
いい流れだと思いました。

<以下ネタバレします>

そしてやはりここでも、
「父親」の位置は極めて重要です。
チョン・グムジャの父親は、
絵にかいたようなDV男で、
彼女の母を殴り殺したようです。
もちろん、幼いチョンもまた、深い傷を負います。
一方ユン・ヒジェの父親はエリートで、
息子に、高潔であることの大事さを教え込みました。
この息子は高慢で、自信過剰ですが、
たしかに(ある論理の中では)高潔であろうとしています。
また、特筆すべきは、
こんな正確なのに、
素直なところ、
プライドが無駄に高かったりはしないところがあるのです。
そして……
まあ、込み入った事情があるのですが、
結果として、チョン・グムジャの父親は、
彼女を狙った刺客に殺されてしまいます。
父親は死ぬのです。
彼女は、泣きはしないのです、憎んでいたので。
(憎んでいたけど、
それでもたった一人の父親だから、
みたいな甘ちゃんではありません、彼女は。)
また、ユン・ヒジェの父親は、
ある事件の被告となり、
それは本来認めるべき罪なのですが、
そしていったんは「認める」と息子に約束するのですが、
土壇場で、父親は保身と奴隷根性に寝返ってしまいます。
ユン・ヒジェにとって、
これは父親の死、倫理的な死以外ではなかったでしょう。
さらに彼には、
仕事上の「父親」とも言うべき人物がいるのですが、
彼もまた、まさにユン・ヒジェの働きによって、
家父長的な権力から滑落します。
社会的な死を遂げた、と言ってもいいでしょう。
つまりユン・ヒジェにとっては、
二人の「父親」が死んだことになります。
韓国映画、韓国ドラマを多く見てきましたが、
わたしの知る限り、
ここまではっきり「父親殺し」を描いた作品はありません。
このドラマは、権威主義を、家父長主義を、
情けさえかけず、殺したのです。

キム・ヘスは、
もう数えられないくらいのドラマに出ています。
(映画では、『コインロッカーの女』に出ていました。
これは、映画自体はイマイチでしたが。

彼女の出演作、
もっと見てみたいです。