2010年10月30日土曜日
『アイシャ』
昨日は午前の授業の後、
大澤真幸さんの特別講義がありました。
さすが、というしかない、濃い2時間でした;
http://monpaysnatal.blogspot.com/
で今日は、あるイベントに行くつもりだったんですが、
台風にビビって、家で過ごすことに。
そして前から見たかった『アイシャ』という映画を見ました。
これは日本未発売なので、
アマゾン・フランスで買った(9.99 €。安いです。)ものなんですが、
ラッキーなことに、フランス語の字幕を出すことができます。
字幕なので、会話そのままではないのですが、
と~っても助かります。
でもその分、分からないところは辞書を引きながら見るので、
倍くらいの時間がかかりましたけど。
でもそれは言いかえると、時間かけたくなる面白さ、ということでもあります。
ま、興味深さ、というほうがいいのかな?
http://www.youtube.com/watch?v=H_mZpcW4Uto&feature=related
アイシャが住んでいるのは、パリの北東、ボビニーです。
これはメトロの5号線の終点なんですが、
細かく言えば、アイシャの住む団地はもう少し先のAvenue Karl Marx です。
もちろん、環状道路(ペリフェリック)の外側です。
アイシャの一家はアルジェリア系のムスリム。
小柄な父親は強権的、抑圧的、
母親は信心深く、おまじないに頼ったり。
アイシャはなんとかこのシテを脱出しようとしていて、
博士号をもつ従妹は、イスラム系だという理由で就職できません。
たくさんのムスリムが登場しますが、彼らはもちろん一様ではありません。
たとえば女性の「純潔」に対する感覚も、
世代によってずいぶん差があるし。
そしてこの、コメディともいえる映画に厚みを与えているのは、
丁寧な人物描写です。
たとえば、
教条的で頑固な父親は、自分の定年退職の日、
一人で医者を訪れ、退職への心の準備ができていない悩みを打ち明けます。
しかも彼は、1952年に、退職の時には、家族を連れてアルジェリアに帰ると、
コーランに誓っていたのです。これは大問題です。
けれども医者は、
イスラムは開けた宗教なんだから、誓いを取り消す方法があるだろう?
と励まします。
わたしらはもっと大変なんだよ、ユダヤ人だから!
というわけです。
またマルセイユ生まれの母親は、
とにかく運転免許を取ることに命がけなのですが、
アイシャの貞操を守るため、怪しげな魔術師(?)のところを訪れます。
彼は黒人で、フランス語でもアラブ語でもない言葉で祈ります。
(途中まちがいなく、彼は「タタンザンベ」と言っているので、
リンガラ語なんでしょうか? 「わが神よ」という意味でしたね。
ってこれはほら、Bisso na bisso の曲名でした、「今週の1曲」でも取り上げた。)
で母は、彼に調合してもらった薬を毎日娘に飲ませるのですが……
また、博士号があるのに就職できない従妹は、悩んだ末、
若きイスラムの伝道師(?)のような人のもとを訪れます。
そこには、彼女と同じ悩みから出発し、
今ではヘジャブを付けることで心の安定を得た、と語る女性たちがいます。
これはどうも胡散臭い感じ。
しかもその伝道師は彼女に、「一時的結婚」という、
訳のわからない申し出をします。
まさか彼女が受けるわけはないよね、と思ったのも束の間……
アイシャは、色々シテを脱出する計画を立てるのですが、
ムリない理由で決行できず。
しまいには、職場(クルマの解体工場)の上司に彼女から結婚を持ちかける始末。
(結婚後すぐに離婚する予定で。)
けれどこの話は、両家の激突により破談。
というのも、アイシャの父親はFLN派。相手方はMNA派。
でこの両派は、アルジェリアのライバル政党(?)なのです。
まあ単にライバルって言えるほど、単純な敵対関係じゃありませんが。
でもこれも、ほぼ50年前の話。今だに「有効」とは……
簡単に見られないのが難点ですが、
学びどころ満載の映画でした!