さっき帰ってきたのですが、
ずいぶん寒くなりましたねえ。
顔に当たる風が少し痛いです。
さて、
大学の授業もかなり進み、
このごろはテキスト以外の短い読み物なども入れているのですが、
こんなときの定番なのが、
まずはやっぱり『星の王子様』であり、
もう1つは『ことば』です。
『ことば』は、ジャック・プレヴェールの詩集のタイトルです。
2009年には、ジブリ所属のアニメ作家高畑勲が、
『ことばたち』という全訳を刊行しています。
読みやすい詩が多いプレヴェールですが、
中でも「朝食」は、おそらく日本中のフランス語教員が、
授業で使ったことのある作品でしょう。
Déjeuner du matin
Il a mis le café
Dans la tasse
Il a mis le lait
Dans la tasse de café
Il a mis le sucre
Dans le café au lait
Avec la petite cuiller
Il a tourné
Il a bu le café au lait
Et il a reposé la tasse
Sans me parler
Il a allumé
Une cigarette
Il a fait des ronds
Avec la fumée
Il a mis les cendres
Dans le cendrier
Sans me parler
Sans me regarder
Il s’est levé
Il a mis
Son chapeau sur sa tête
Il a mis
Son manteau de pluie
Parce qu’il pleuvait
Et il est parti
Sous la pluie
Sans une parole
Sans me regarder
Et moi j’ai pris
Ma tête dans ma main
Et j’ai pleuré.
たった1つだけのピリオドが印象的なこの詩を、
五感を総動員して読むことになります。
コーヒーの、煙草のにおい、
カップがソーサーを打つ甲高い音、
背景に降り続く雨の音、
ミルクを入れる動きと、交わらない視線……
そして最後から2 行目、
女性は顔を覆って泣くのです、片手で。両手ではなく。
煙の「輪」はいくつもあったのに、ma main は単数です。
そして最近、このプレヴェールの評伝が刊行されました。
『思い出しておくれ、幸せだった日々を』(柏倉康夫・左右社)
です。
570ページ超の大作で、その分値段も安くはないのですが、
プレヴェール・ファンは必携でしょう。
(地元の図書館でリクエストすれば、おそらく買ってくれるでしょう。
こういう本をリクエストして買ってもらっておくと、
いつの日か、未知の誰かに感謝されるでしょう。
わたしもそうして、未知の誰かにたびたび感謝してきています。)
プレヴェールは詩を書いただけでなく、
映画の脚本も多く手がけました。
その数、なんと55本だそうです。
「パリ燃え」でもちょっと触れた『夜の門』も、その内の1作で、
この評伝でも、そのあたりの事情がくわしく書かれていました。
酷評され、つらい思いをしたようですが、
逆に言えば、ああいう作品が「古い」と感じられる時代になった、
ということでもあるのでしょう。
評伝というのは、もちろん、その主人公を鏡にした、
時代の証言でもあるわけですね。