2020年12月20日日曜日

『バンリューの兄弟』

「パリ郊外」繋がりで、

『バンリューの兄弟』

を見てみました。
これはNetflix でのタイトルで、
オリジナルは

Banlieusards

なので、『郊外の人々』となるでしょう。
実際、たしかに郊外で暮らす3兄弟がメイン・キャラクターではありますが、
彼らを取り巻く人々、
母親はもちろん、友だち、仲間、敵、も含めて、
「郊外人」を描いています。

舞台は、ヴァル=ド=マルヌの Bois-l'Abbé 地区。
そこにあるHLMで、マリ系の移民系の母と、
二人の息子が暮らしています。
実は長兄もいるのですが、
彼は麻薬がらみの犯罪を繰り返し、
家から追い出されています。
で、
次兄は大学生で優秀。
雄弁コンクールの決勝を控えています。
ただ、15歳の末弟は、
次兄より長兄の生き方をモデルとしているように見え、
それが母親を嘆かせています。
そしてこの末弟が「事件」を引き起こし、
その余波が、遠くまで及んでゆきます……

映画としての構造は、単純です。
麻薬取引や殺人もありますが、
それは「郊外」の日常であるかのように描かれています。
「郊外」の置かれた状況について、
わりと概念的な説明が複数試みられている点が、特徴でしょう。

ただそれもそのはずで、
この作品の監督は Leïla Syと Kery James で、
二人は HipHop 界の有名人で、アクティヴィストです。
(Kery James は長兄を演じています。)
途中、主人公である次兄が、
Kery の Lettre à la République というラップを、
力強く歌う場面があります。

A tous ces racistes, à la tolérance hypocrite,
Qui ont bâti leur nation sur le sang,
maintenant s'érigent en donneurs de leçons.
Pilleurs de richesses, tueurs d'africains,
colonisateurs, tortionnaires d'algériens.
Ce passé colonial c'est le vôtre.
C'est vous qui avez choisi de lier votre histoire à la nôtre.

共和国よ、この植民地主義的な過去こそ、おまえの過去だ。
おまえの過去を、オレたちの過去と結びつけることを選んだのは、おまえ自身だ。

確かにね。

それから小さなことですが、
長兄のダチも次兄も知っていたセリフは、
調べてみたら、
『スカーフェイス』からの引用でした。
ごく単純な論理ですが、
『スカーフェイス』がそれほどまで有名なことに、
あらためて気づきました。

Dans ce pays, il faut d’abord faire le fric, 
et quand tu as le pognon tu as le pouvoir, 
et quand tu as le pouvoir tu as toute les bonnes femmes.