2021年1月6日水曜日

『アトランティックス』

最初に言ってしまいますが、
とてもいい映画を見ました。

『アトランティックス』

です。
(ネトフリで見たんですが、
これ1本で、今月分は元取りました。)


ストーリーは、一見単純です。
セネガルの、ダカールにほど近い海辺の街、
恋仲のティーンがいて、
でも、スレイマンは働いても働いても金が入らない、
アダは、10日後に、親の決めた男との結婚の予定がある……。
で、スレイマンは、
アダに別れを告げることができないまま、
スペインに移民すべく、密航船に乗るのです……

というところで、
まだ物語の20%くらいで、
その後、思いもしなかった展開を見せます。
ただ、この映画が素晴らしいと思うのは、
その意外な展開ゆえではありません。
そうではなく、もう、
たとえばアダがただ歩いているシーン、
ただ寝転がっているシーン、
スレイマンがトラックの荷台で揺られているシーン、
そして海……
どれ一つとっても、
ああ、これが映画だ、という感触があります。
音楽もいいし。

退屈な映画を見た時には、
テンポが遅すぎる、と思うこともありますが、
この映画のゆるやかなテンポの魅力を前にすると、
やっぱり映画はテンポだけじゃないことを再認識させられます。

何か書くと、映画の内容に踏み込んでしまうので、
今回は書きませんが、
とにかく、最近見た中では一番おもしろかったです。
恋愛映画であり、移民映画であり、
格差を描き、生と死を描いています。

この映画は、カンヌのグラン・プリを獲っています。
ふだん、そうした賞はあまり気にしないのですが、
これをグラン・プリ(ってのは2位なんですが)にするなら、
カンヌはやっぱり捨てたもんじゃない、と、
(つい上から!)思ってしまいました。

それから言葉ですが、
基本はウォロフ語のようです。
ただおもしろいのは、
なにげなく、スピードや抑揚を変えるでもなく、
ウォロフ語の途中にフランス語が挟まっていることです。
それも、
Merci. Voilà. SVP.
くらいならともかく、
(これくらいならレバノン映画でも聞こえてくることがあります)
思い出せるだけでも、
Ça va aller.
C'était pas pour ça.
Vous allez voir.
Il a beaucoup fait pour vous.
など、
短い決まり文句的ではあるけれど、
1単語とかではなく「表現」が使われていて、
不思議な感じでした。
きっとフランス語もできるんだろうな、という感じ。

そして、これが長編第一作だという、Mati Diop のインタヴュー。
(彼女の父親は、セネガル系のミュージシャン、
叔父は映画人のようです。)