2013年2月17日日曜日

『フランス、幸せのメソッド』


Karin Viard(日本ではカリン・ビアールと表記されているようです。)は、
好きな女優の1人です。
(と書いてしまったものの、
彼女の数ある出演作品のうち、
まだ見ていないもののほうが多いので、
ほんとうはこんなことを言う資格はないんですけど。)

最近印象に残ったのは、

http://tomo-524.blogspot.jp/2012/09/les-invites-de-mon-pere.html

そして古いところでは、
あの『憎しみ』にも出演していました。
(あの3 人が、パリの画廊でナンパする女性のうちの、
眼鏡をかけていたほうです。)

そして彼女が2 年前に出演したのが、今回見た
『フランス、幸せのメソッド』
です。
結論から言うなら、とても面白い! 映画でした。

http://www.youtube.com/watch?v=YjU7RlBrSuM

……この予告編、本編の印象とだ~いぶ違います。
というか、こういう映画じゃないです。
(邦題も、あり得ない感じ。
原題は Ma part du gâteau (My portion of the cake)です。)

一方に「ハゲタカ」的な生き方をする金持ちの独身貴族35 歳、スティーヴがいて、
もう一方には3 人の子持ちのシングル・マザー、
20 年勤めたダンケルクの工場が閉鎖され失業中の女性、フランスがいます。
彼女が仕事を求めてパリに行き、
家政婦として働き始めた家が、スティーヴのところ。
そしてこのスティーヴ、フランスが勤めていた会社を潰し、
1200人を失業させて大儲けしたグループの一員だったのです。
この1つの偶然の周りに、
人間の生活を形作るさまざまな要素が配置されてゆきます……

細かい点で興味をひかれたのは、
まずフランスがパリで家政婦の養成を受ける場面。
その養成所は移民女性たちばかりのところなので、
「悪いけど、ちょっと訛ってもらいたいんだ。
フランス人女性がいると、みんなが変に思うから」
フランスは進んで大仰な訛りで話すことにします。
つまり彼女は、ここから「移民」として生きるわけですが、
この場面に先立って、
ダンケルクで働くノルマンディー出身の自分は、
「もともと移民みたいなもの」という発言がありました。
フランスは、その名の通りフランス人ですが、
「移民的存在」であるわけです。
ここで「移民」とは、その出自というより、
ある生き方をする――させられる――社会的グループを指しているようなのです。
そしてそれは、アイデンティティーと呼んでもいいかもしれません。

(家政婦養成所の経営者は、『愛より戦争のカンケイ』で、
ヒロインであるバイアの父親役を演じたアラブ系男優です。
実はフランス版DVD のおまけである「カット・シーン」の中に、
彼とフランスが座ってテレビを眺めている場面があります。
フランスは彼の手に自分の手を置き、
「出身は?」
と尋ねます。彼は答えます、
「サン・テティエンヌ」と。
するとフランスは「ああ」と言って、
そっと手をひっこめるのです。
前後のつながりがはっきりしないのですが、
フツーに考えれば、「移民」同士のだろうと思って訊いてみたら、
意外な返事が返ってきて驚いた、ということろでしょう。
そしてそこには、フランスの「移民」としての自意識が、
前提として存在しているようです。)

もう1つ。
スティーヴの超豪華なマンションは、
ビルの高層階にあるのですが、
その広い広いガラスの壁からは、
間近にあの新凱旋門が見下ろせるのです。
つまりトレーダーであるスティーヴは、
デファンスの真ん中に住んでいるわけです。
(wiki のLa Défence には、
Les films tournés à la Défense という項目があります。
ただし、この映画はまだ書き込まれていません。)
また「カット・シーン」には、
初めてデファンスに来たフランスが、
道に迷うシーンがあります。
コミカルで、デファンスの感じを伝えていますが、
このシーンは、映画にあいまいさを与えてしまうかもしれません。
切って正解という気がします。)

監督はセドリック・クラピッシュ。
彼の作品の中では、1番かも。