2021年11月6日土曜日

『最後の追跡』

テキサスレンジャー、というものになんとなく惹かれ、
見始めたのがこれ、

『最後の追跡』(2016)

です。
原題は Hell or High Waterで、
「地獄、あるいは絶頂」
くらいでしょうか?
ほとんどなにも期待してなかったんですが、
引き込まれました。
おもしろかったです。


クリス・パイン演じる中年男トビーが、
出所したてのワルの兄と銀行強盗を働き、
それを、定年間近のテキサスレンジャーとその相棒が追う、
というお話です。
こう書くと単なる犯罪もののようですが、
それほど単純ではありません。
そもそも、まじめなトビーが銀行強盗するに至ったのは、
つい最近亡くなった彼の母親が、
まさにその銀行に、
ほとんど詐欺のような手口で、
先祖代々守ってきた牧場を差し押さえられそうだったからでした。
それが執行される前に借金を払おう、
それについては、銀行に払ってもらうことにしよう、強盗してでも、
というわけなのです。
でも、背景はまだ奥があります。
レンジャーの一人は、
先住民とメキシコ系のダブルで、
(先住民系であることを、
彼の上司は執拗にからかい続けます。)
その彼が、あるとき銀行を前にしてつぶやくのです、
「かつて、ここはすべておれたちの土地だった、
それを軍隊が奪い、
いまやまたそれを、
こいつらが奪おうとしている……」
こいつら、とは、銀行のことなのです。
それはつまり、強欲資本主義の象徴のようなのです。
で、さらに、微妙な伏線もあります。
実はトビーたちもまた、
コマンチの血をひいているらしいのです。
トビーの兄は、ある賭博場で、
コマンチの子孫と一触即発になります。が、
そのときこの兄は、
これもコマンチだ、
と言い放つのです。
最初は冗談のようにも聞こえましたが、
やはりこれは事実なのでしょう。
ということは、トビー名義になっている広大な牧場
(そこから石油が出ました!)
は、コマンチの時代以来の所有物なのかもしれないのです。
そう考えると、トビーが子供たちに、
「(相続しても)ゼッタイに売るな」
と言っていたこととも符合します。
つまり、一見単純な銀行強盗は、
背後に、先住民以来の土地に関わる問題が絡んでいたわけです。

邦題は、トビーたちを追うレンジャーに焦点を合わせていますが、
そしてそういう部分もたしかにあるのですが、
やはりこれは、
トビーの土地を巡る物語だと考えるべきでしょう。

乾いた映像が美しく、
その点では『ノマドランド』を思い出しました。
いい映画でした。