2022年5月5日木曜日

『ハミルトン』

2015年の初公演以来すご~く話題になり、
2020年には舞台を映した映画までできた、

『ハミルトン』

実はわたしの「見る予定リスト」には入っていなかったんですが、
院生の一人に「すごくいい!」と教えられたので、
Disney+ でその映画版を見てみました。
結論から言うと、圧倒的に素晴らしかったです。
大ヒットするのがよく分かりました。


主人公は、
「アメリカ建国の父」たちの中では、
一番地味だと言われるアレクサンダー・ハミルトン。
(10ドル札の人です。)
彼は、アメリカ独立戦争の時には、
ジョージ・ワシントンの副官で、
合衆国憲法を実際に書いた人間であり、
アメリカ初代の財務長官でした。
が、彼の「出自」は、
ほかの「建国の父」たちのようなエリートとはまったく違い、
スコットランド系とはいえカリブ生まれで、
しかも母親は「売女」で、
12歳の頃には孤児となりました。
ただ、きわめて優秀で、
周囲の助けでアメリカ本土に渡り、
その知力と野心でのし上がっていった人です。

このミュージカル、
(今さら書くのも気が引けますが)
キャストはなんと非白人です。
ハミルトン役はヒスパニック系、
その妻はアジア系、
妻の姉(←彼女を演じる俳優が素晴らしい)はアフリカ系……
この演出は、
ハミルトンという人物が「移民」であり、
またいわゆる「移民性」を色濃く背負った人物であるという事実から、
インスピレーションを受けたものなんだそうです。
そしてそのことは、
とてもよく伝わってきます。

ミュージカルの中でのハミルトンは、
決して単なる善人でも、ヒーローでもありません。
野心家で、妻を、その家族を悲しませ、
自己中心的なところも強烈にあります。
でも、それでも、
「建国」の意志もまた強いわけです。
そしてこのミュージカルの美点は、
そのなかに、混沌や、闘争、不条理などが描きこまれ、
それはまるで、
「現代」の源流であるかのようなのです。
この理解の仕方は、とても魅力的だと感じました。
いまだ解決にはほど遠く、
それはこれからも続くのであり、
それが、「アメリカ」を作ることなのだ、
という意味なのでしょう。

特に印象に残った歌が YouTube にありました。


(一点、少しだけ気になったのが、
女性たちの位置づけです。
彼女たちは、健気で強く美しいのですが、
みんな、男たちの「背景」なのです。
建国の母たち、
の物語もあるはずなので、
それも見たいところです。)