2023年2月4日土曜日

『淵に立つ』

水曜日のゼミでは、
院生のセレクションで、

『淵に立つ』(2016)

を見ました。
カンヌに出品された作品です。

 
変な言い方ですが、
これ、小説で言ったら、
芥川賞レベルだと感じました。
見ている間、なんというか、
いわゆる「純文学」のいい小説を読んでいる感覚でした。

町工場を経営する一家は、
夫婦と小学生の娘。
そこに、男の「古い友だち」が訪ねてきて、
これがいかにもワケアリで、
男は、その友だちを雇い入れ、
かつ、一緒に自宅に住まわせることにします。
ただしこれは、妻への相談は一切なしです。
男は、食事中も新聞を読み、
家事はもちろん、
娘のことにもほとんど興味を示しません。
そしてもちろん(?)、
妻は、この友だちと接近します。が、
一線を越えようとした友だちを妻がはねつけたとき、
この映画の、真の始まりが訪れます……

男は、徹底的にダメなヤツです。
自己中心主義で、ナルシシストで、
他者への想像力を欠いています。
妻はクリスチャンで、「いい人」です。
なぜ彼女が、こんな男と結婚したのか、
これが謎です。
男のダメさは、根っからのもので、
昔はやさしかった、みたいなことではないように見えるからです。

かなり厳しい映画ですが、
僭越ながら、
90点を付けたいと思います。
マイナス10点は何かと言えば、
たとえば冒頭の、母親を食べる昆虫のエピソード。
これ、もう飽きた。
これは悪い意味で「純文学」的なところだと感じます。
でも、「赤」の使い方も巧みだし、
演者もいいし、
もちろん90点は「とてもいい」という意味です。