2021年10月11日月曜日

アンリ・ヴェルヌイユ

大学院ゼミでは、
先週と今日とを合わせて、
アンリ・ヴェルヌイユ監督の作品を2本見ました。

『冬の猿』(1962)
『地下室のメロディー』(1963)



『冬の猿』では、
ジャン・ギャバンとベルモンドが共演、
そして『地下室』では、
ジャン・ギャバンとアラン・ドロンが共演しています。
つまり、
まさに往年のスターであったギャバンから、
新時代の2大スターへの、
いわばバトン・タッチのような位置づけの作品と考えられるわけです。

『冬の猿』は、
もう思い出せないくらい昔に見て、
「おもしろかった」という記憶だけが残っていたのですが、
どの場面を見ても、
かつての記憶はまったくよみがえりませんでした。
でも、
なかなかおもしろかったです。

ギャバンが演じるのは、
WWⅠでアジアに出兵し、
そのときの揚子江や上海の記憶を、
自分の輝ける青春の形見のように抱いている、初老の男です。
彼は今、
ノルマンディーの小さなホテルを、
妻とともに経営しています。
大酒を飲んで酔っ払い、
アジアでの記憶に浸ることが、
生きる支えになっているように見えます。

そこに、ベルモンドが客として現れます。
当初ベルモンドは、
近くの飲み屋で暴れてみたり、
無軌道で突拍子もない行動が目立ちましたが、
実は彼は、
寄宿舎に入れていた10歳になる娘を、
パリから迎えに来たのでした。
それが分かってみると、
それまでの彼の行動は、
青春に別れを告げる儀式であったようにも見えてきます。

物語は、ドイツ占領期のノルマンディーで始まり、
その後すぐに、ノルマンディー上陸作戦、
そして解放時代へと続きます。
そしてそうした時間の中で、
ギャバンはWWⅠの記憶にしがみついている……。
彼にとって、WWⅡは起こらなかったかのようです。
(これは、多くのフランス人が、
WWⅡの健忘症になっていたのと見合っているのでしょう。)

物語の終わり、
ベルモンドは娘とともにパリに帰ります。
彼は、「父親」になることを受け入れたわけです。
そしてそれは、
はぐれていた孤独な「冬の猿」が、
群れへ戻ることを意味してもいるのでしょう。
ただし、ギャバンの方は、
今後も「冬の猿」でい続けるしかない用に見えます。

『地下室のメロディー』は、
むしろはっきりしたエンタメです。
特徴的なのは、
出所したばかりのジャン・ギャバンが、
妻の待つサルセルヘ戻っていく冒頭のシークエンスです。
サルセルは、都市開発のまっただ中にあり、
ギャバンが知っていた街はもう、どこにも見当たらないのです。
ここでも、
時代から置き去りにされた男を、
ギャバンが演じているわけです。
そして彼は、
若いチンピラ、アラン・ドロンと「仕事」をするのですが……

1960年代。
これはヌーヴェル・ヴァーグの時代でもありますが、
ギャバンが去り、
2大スターが登場する時代でもあるわけですね。