北海道新聞の書評欄で、
『パリ移民映画』を取り上げてくださいました。
Merci mille fois !
http://dd.hokkaido-np.co.jp/cont/books/2-0026620.html?page=2015-05-31
保存用として、
コピペもしておくことにします。
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パリ移民映画
評 小倉孝誠 慶応大教授
他者への理解 読み解く
今年1月パリで起こった、新聞社を襲撃したテロ事件の記憶は、まだ生々しい。犯人がフランスで生まれ育った、アラブ系やアフリカ系の人間だったので、フランス社会の軋轢(あつれき)を露呈する事件として報道された。しかし困難はあっても、移民の大多数は他のフランス人と同じように、平穏な生活を送っている。そうした彼らの姿は1970年代以降、数多くの映画に描かれてきた。著者はそれを「パリ移民映画」と名づける。
パリ移民映画が誕生するためには、パリという独特の都市空間と、移民社会の成立が必要だった。パリはかつて城壁に囲まれ、それを取り払った跡に環状高速道路を造った。この道路はパリ市内と郊外を隔てる地理的な境界線であると同時に、パリの内と外を区別する文化的、社会的な溝にもなってきた。
映画『憎しみ』は、パリ西北郊外に住む移民家庭の若者たちの過酷な現実を描く。『オーギュスタン、恋々風塵』は、パリ13区の中華街を舞台に、中国から移住してきた女性と売れない役者の交流を語り、『アイシャ』では、ボビニーに暮らすアラブ系の女が、郊外から脱出し、パリに住むことを夢見る。
著者は、これらの作品に浮上する重要なテーマをいくつか指摘している。まず共生のテーマ。いわゆる生粋のフランス人と移民の恋愛をつうじて、異なる価値観をもつ者たちが共に生きることを学ぶ。次に郊外。それは閉塞(へいそく)感をもたらすと同時に、移民たちの夢と、解放への希望を掻(か)き立てる空間になる。そして第三に女性の自立。移民の女性たちは、さまざまな束縛にあらがいながら、自らの成長と自立を模索する。
こうして見ると、パリ移民映画は、普遍的なテーマとつながる側面が多いのに気づく。著者は丹念にフィールドワークをしているので、映画に撮られたパリの街並みの臨場感がよく伝わってくる。本書で紹介されている映画の多くはDVDで観(み)ることができる。映画をとおして他者に出会い、理解することへと読者を誘う好著である。
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