2015年6月19日金曜日

Lévy et Goliath

先日、ジェラール・ウーリ監督のこの作品を見ましたが、

http://tomo-524.blogspot.jp/2015/04/les-aventures-de-rabbi-jacob.html

今日は、同じウーリ監督の1987年の作品、

Lévy et Goliath (『レヴィとゴリアテ』)

を見てみました。

http://www.dailymotion.com/video/x98czj_levy-et-goliath-bande-annonce-fr_shortfilms

この作品もまた、
明らかにドタバタの要素があるんですが、
なかなか味わい深く、
これはいい映画だと思いました。

主人公は、アルベールとレヴィの兄弟。
アルベールは、ユダヤ的なものを嫌い、
実家のアンヴェールを早々に離れ、
今ではパリで結婚し、子供もあり、
17区(rue Courcelles とbd. Bethiers の角。
Le Celtique は今も健在のようです)でカフェを経営しています。
一方レヴィは、かなり固めのユダヤ教徒で、
最近結婚したばかり。
物語は、ダイヤモンド業者で働くレヴィーが、
パリ郊外のルヴァロワ(17区に接している)のルノーの工場に、
ダイヤの粉を届けるところから動き始めます。
パリに向かう車中、
警察から追われていた麻薬の運び屋が、
とっさにその麻薬を、
レヴィのバッグに隠すのですが、
これが、ダイヤの粉末とうり二つ。
ここから取り違い事件が起き、
麻薬を取り返すべく密売人たちがレヴィを追い、
レヴィはどうしようもなくなって、
音信不通だったアルベールに助けを求め……
という感じで広がってゆきます。

文化的なレベルで言えば、
この兄弟のユダヤ的なるものへの向き合い方の違いが、
ひとつの通奏低音をなしています。
そしてそこに、一人のカビール系の女性が絡むのですが、
彼女とレヴィの関係が、また興味深いものでした。


敬虔なレヴィは、基本、女性の目を見ることはありません。
(それどころか、帽子で顔を隠してしまうこともあり、
それで麻薬を入れられたりもしたわけです。)
が、彼女にそのことを指摘されたのち、
「女性の眼って、きれいなんだね」
なんて言ったりします。
でも、そこまで。
彼女は、「アラブ女」として見下されるのはゼッタイいやで、
だからこそ成功を求め、
またセックスなんて、したいとことでしたい時にすればいい、
と言い放ちます。
でもレヴィは、一瞬でも彼女に対して欲望を抱いたことに、
あとで罪悪感を感じてしまうのです。
たしかに観客としても、ここで関係がうまれると、
新婦さんのことはいいのか、と、
どうしても思いますから、
こうした淡さがいいのかもしれません。
(カミュの『不貞』が思い出されます。)

もう1つ面白かったシークエンスは、
レヴィがワルをはめるカフェでの場面。
アラブ系もアフリカ系もたくさんいるカフェで、
レヴィはワルに向かい、唐突に、
「なに、<きたないユダ公>だって!?」
と声をあげます。
もちろん、ワルはそんなことは言っていないのです。
振り向く客たち。そしてレヴィは
「<きたないアラブ>とはなんだ!」
「<くさい黒人>だと!」
と続け、結局ワルは、
お客さんたちに袋叩きになる、というわけです。
(<くさい黒人>と言った後、
レヴィは、となりにいた黒人男性に向かって、
でもあなたはラヴェンダーの匂いしかしませんよね、
と言います。たとえ嘘の悪口でも、
こういうフォローはあったほうが好感が持てます。)
これの変奏がもう一度あるのですが、
そこでは、ゲイたちが主役になります。

そして思うのですが、
こうした民族にかかわるパターン化した悪口は、
21世紀の今も、そのまま残っているようです。
それはもちろん残念なことですが、
ただ、むしろ無内容な定番すぎて、
ネタに近い感じもあります。
たとえば、この歌では、

https://www.youtube.com/watch?v=uX5Ww3youaM

ユダヤ人はお金しか興味がないなんて言っちゃだめだ、
だって彼らは、
VISAカードもMASTERカードも好きなんだから!

なんていう歌詞もあります。
定番の侮辱自体を、からかっているのですね。
ナイス!